信者をプロデュース?











「月君、お先に。」

「おつかれさまでーす!」

帰り支度を整えた井出と松田が、口々に別れの挨拶を告げる。
おつかれさまでした、とにこやかに返しながら、月は部屋を出るその後ろ姿を見守った。
ソファに身を預け、遠ざかる話し声を確かめて、ふぅと軽く息を吐く。
模木はミサのところであるし、相沢は十三回目の結婚記念日だかなんだかで、早々と帰途についていた。
これで、この捜査本部に残っているのは月だけであるはずだ。
日本に戻ってきてからこっち、ミサから辿ってかなり接近してきたメロのおかげで、ろくに睡眠もとっていなかったのだが、それもようやく今日で一段落つきそうである。
現在捜査本部に使用しているこのホテルのスイートには、もちろん広いベッドルームも備え付けられているので、今日はこのままここで一晩過ごしてしまうのもいいかもしれない。
そう考えて立ち上がると、不意に軽快なチャイムの音が部屋に響いた。
松田が忘れ物でもしたのだろうか?

「はい?」

『……あ、の…………魅上ですが…。』

「……?あの、失礼ですが、聞こえにくいのでもう一度お願いできますか?」

『…月さま……魅上照、です…どうか開けてくださいませ…ん、か…。』

壁のインターフォンで来訪者を確認するが、小さくぼそぼそと話すので何を言っているのかはっきり聞き取れない。
とりあえず、捜査本部の面々でないことは確かなようだ。
訝しげに再度問い掛けて、ようやく、それが最近常に月の傍らに在る忠実な部下だということを悟る。

「……照?」

全く、気付かなかった。

本部での照はいつも、通りのよい低く涼やかな声音ではっきりとしゃべるし、滑舌もけして悪くない。
こんなふうに、ぼそぼそと呟くような話し方ではなかったはずなのだが。
不思議に思いながら玄関に向かい、鍵を開ける。
そこに立っていたのは、月の見知らぬ男であった。

「……………て、る?」

「は、はい……。」

「………まぁ、入って。」

月は美しく整った眉を、疑わしげに寄せた。
本当に、同一人物なのか?
いや、よくよく聞けば確かに聞き慣れた照の声であるし、身につけている時計やコロンなどから本人であることは間違いないのだが…。
やはり普段と異なり、おどおどと部屋に踏み入る照を、頭の先から爪先に至るまでじろじろと眺め回す。
すらりと高い長身は猫背気味にかがめられ、洗いざらしで乾かしもしなかったのか、漆黒の髪はすっかり艶を失ってぼさぼさ。
俯き加減であるせいで長い前髪がうざったらしくかかった顔は、今時何処に売っているんだ?と尋ねたくなるビン底眼鏡のせいでその大半が覆い隠されてしまっている。
黒縁眼鏡の真四角な太いフレームが野暮ったさを増していて、さらにいただけなかった。
これで両手に紙袋を提げて秋葉原でも歩いていれば、まんまオタク以外の何者でもない。
そして最大の違和感を感じるのは、なんと言ってもその身に纏う雰囲気である。
いつもの自信ある威風堂々とした態度は何処へやら、おどおどとこちらを伺う様はまるで月がいじめでもしているようだ。

…こいつ、二重人格者か何かか?

突拍子もない言動や行動で散々月を振り回したあげく、全く悪怯れない男(ただ単に振り回している自覚がないだけなのだが。本人は至って真剣である。)とは別人にしか思えない。
まぁ、この際そのことは置いておくとしても…頭はともかく、容姿はまとも…いや、最上級の部類に入っていたはずだが……あまりにも月が見慣れている姿とは違いすぎていた。

「………照、今日はどうしたんだ……?」

思わず月がそう問い掛けたのも、無理からぬことであろう。

「は、……今日は仕事が長引きまして……。
ご迷惑かとは思いましたが、どうしても神の麗しいご尊顔を拝見したかったので………も、申し訳ありません……。」

「いや、そういうことじゃなく…。」

どうやら、本人は無自覚であるらしい…いつもより遅い訪問であったのを咎められたのかと思っていたらしく、月の歯切れの悪い言葉に首を傾げている。
仕方なく、月は単刀直入に尋ねた。

「…いつもと随分感じが違うから、どうしたのかと……。
眼鏡、かけていたのか…?」

ようやく得心したのか、照はああ、と軽く頷いて答えた。

「私は服装などには疎いので…い、いつもは……大学生の従兄弟が髪型などを見立ててもらって…命より大事な人に会うと言ったら、そんな格好では駄目だと……。
…眼鏡は、そのときコンタクトの方が良いと勧められて……そ…れに、この方が月さまのお顔を間近で拝見できますし……いつもより視界が開けるような気がして、背筋が真直ぐ伸びるような心地になると言いますか…。」

それ、従兄弟は絶対に相手が女だと思ってるぞ。
あと、心地がするじゃなくて、実際に背筋伸びてるから!

月が無言で内心ツッコミを入れていると、沈黙を不快なためだと取ったのか、照がおろおろと言い募った。

「…ら、月さま……?
あの、やはり失礼でしたよね…身繕いもせずに神の御前にあがるなどと……。
今日は本当に急いでおりまして…………も、申し訳ありませんでした………。」

「そんなことは構わないんだけど……。…じゃあ、その方が普段の照に近いのか?」

「…え?あ、…は、はい……どちらかと言われましたら………。」

「そうか…。」

改めて、照の身なりを検分する。
時計はロレックスのデイトナ、ブラックフォーマルのスーツからはストイックなシトラスが微かに香っていた。
身に付けているものの一つ一つは質がよく、趣味はいいのに(その眼鏡のチョイスはどうかと思うが)…どうしてこんなにも野暮ったく…有体に言えばダサくなるものだ。
だが、色々思うところはあるものの、普段の強引さから考えると、こちらの方が格段に扱いやすいことは明白である。
月は、これ以上その話題には触れないことに決めた。
そういえば、まだ夕食を取っていない。
今日はもういいかと思っていたが、たまには照と二人で外食もいいだろう。
玄関脇のクローゼットを開けて自分のジャケットを取り出しながら、照を誘う。
返事は聞かなくとも既に分かっていた。

「照、これから外に食べに行かないか?
僕はまだなんだけど。照もまだだろ?」

身なりも整えずに飛んできたのだ。食事も二の次だったに違いない。

「…それはそうですが……し、しかし…。」

が、月の予想に反して、困ったような返事が返る。
月の眉間に皺が寄った。

「……嫌なのか?」

滅多に異を唱えられることがないからか(暴走時を除く)、余計に不快だった。
その様子を見て取って、照がぶんぶんと首を振りながら、焦って弁解を始める。

「そんな!め、滅相もありません‥っ!
…ただ、その……何といいますか、今日の私はこんな格好ですから………あの、月さまには釣り合わないというか…恥をかかせてしまいます……。」

そう言って、ちらりと月を見やり、頬を染めて俯いた。
オフホワイトのジャケットを羽織った月は、ノーネクタイの黒シャツに、同じく黒いタイトなズボンを纏い、それが一層細くしなやかな躯の線を引き立てている。
睡眠不足のせいか、シャツのボタンを二、三開けてけだるげにこちらを見やる様は、さながら愚かな人間を堕める美しくも残酷な悪魔のようだ。(照ビジョン)

自分では、到底釣り合えるとは思えない。

それを聞いて、月の表情が和らいだ。

「…まだ気にしてたのか……。
僕は全然気にしないし、釣り合わないとか、そんなことないから。
…遅くなるし早く行こう。」

まだ戸惑っている照を置いて、さっさと廊下に出る。
もちろん鍵はオートロックであるし、結局照が自分についてくることは分かっていた。
どうやら、先程の月の言葉を気にしていたらしい。
なんだ、そんなことか。
照の言葉を聞いて何処かでほっと安堵する自分がいるような気がするが、月がそれを追求することはなかった。

「ラ、イトさま‥!」

すぐに慌てた声が追い掛けてきて、コンパスの差で隣に並ばれるが、立ち止まらない。
ホテルのエントランスを抜け、外に出たところで初めて、後ろを振り返りもせずに当然のように問い掛けた。

「何にしようか?」

「…私、は……あなたのお好きなものならなんでも…………。」

「……じゃあ、少し歩こう。」

そう言って、あてもなく歩きだす。
部屋のなかで火照った頬に冷たくなりはじめた風を楽しんでいると、ふと大勢の視線を感じた。

「………?」

自分が人目を引くことはよく分かっているし、その視線には慣れている。
が、確かに自分に向けられるいつもの視線も感じるが、それとは別種の視線が月を通り抜けて背後に向かっていた。
やはり、月の後ろにひっそりと付き従う照に向けられたもののようである。
それに気付いてからは、耳を澄まさずとも勝手に周囲の会話が聞こえてきた。

「…見てあれぇ…前の人かなりイケてるのに、後ろの人オタク?ちょーきもーいっ!
お金貰っても付き合いたくないってかんじぃ。」

…………ムカ。

「マジありえなくね?今時あんな眼鏡どこで売ってんだよ〜。の○た君?みたいなァ。
売ってたら逆に欲しいっつーの、ギャハハ。」

…………ムカムカムカムカムカ。

胸のなかに、何かもやもやとした不快なものが広がる。
さっきまで自分も散々思っていたことではあるが、他人に言われると、なんだか無性にムカついた。

バカ女、本当の照にはお前なんて足元にも及ばないんだよっ。
金払われても願い下げ?…ハッ、それはこっちの台詞だ。視界にも入らないねっ。

お前よりは比べるまでもなく照の方が優秀だよ…顔も頭も年収もボロ負けだっつーの、この腐れチ○ポ野郎が!

今すぐデスノートに手当たり次第名前を書いて殺しまくりたいような、凶悪な気分だ。
そっと横目で照を窺うと、俯きすぎているせいで更にひどくなった猫背が目に入る。
照にも聞こえていたのか、叱られた大型犬のようにしょげきって、申し訳なさそうに大きな身体を縮めて歩く姿は、見ているこちらが痛々しくなった。

「ていうか、あの人よくあんなのと歩けるよねー?格好いいのにもったいなーいっ!
付きまとわれてんのかなぁ…かなり迷惑だよねぇ。」

照の身体がビクリと震えた。

………プツリ

突然月が立ち止まる。
神はお優しい方であるから照の心情を慮かって何も言わないだけで、きっとご気分を害されてしまったのだ…無理もない、こんな自分では……。
黙したままの月をそうとり、照は意を決して辞退の言葉を口にした。

「…あ、…の……月さま、私はやはりこれでか」

「…………もう、我慢できないっ!」

「…え?…は、だからこれでお暇して………。」

きょとん、と照が首を傾げる。
月は柳眉を寄せた。

「お前、あんな人間に馬鹿にされて黙ってるつもりか!
……九時…よし、まだ店は開いてるな。
美容院に服に…いや、そんなのは後でいい、とりあえずその眼鏡だけでもなんとかしよう。」

「…し、しかし……。」

「しかしもだってもないっ。僕の言うことに逆らうのか!」

まだ渋る照の手を、有無を言わさず引っ張る。
急がなければ店が閉まってしまう。
照はピタリと口を閉じて、繋がれた手をうっとりと凝視していた。
自分でも何故照を馬鹿にされてこんなにも怒りが募るのか分からない。
きっと、照は自分のものなのだから、ひいては自分も馬鹿にされることになるからだ。
うん、そうに違いない。
納得しない思考に無理矢理結論づけて、月は歩みを早めた。



















文がくどすぎだよ…!読みにくいよママン…!(泣
しかもまだ何も始まってません…本当に序盤…起承転結の起にもいってないような…(殺
続きあったんですけど、ノートかデスクかどこのPCに入れたか分かんないまま紛失しますた(´∀`)←うおい!
『の○たをプロデュース』っていうドラマ見てて、ダサいへタレ照をイケメンに月が改造☆ネタを書きたくなりまして…。
しかものぶたネタってダサいのをプロデュースするとこしかあってないよ…高校生でも二人組みでもないよ…アッハッハッ(爆
気が向いたらまた続き書きます…。(またそれかよ!)
ほっんとにすみませんっしたーー!(スライディング土下座

御影








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2005.12.06