芸能照月:02











「ら、月くん…大丈夫?」

控え室を出ると、扉の前で待ち構えていたのだろう、松田がおどおどと問い掛けてきた。

「……これがそう見えますか?」

スタジオへの通路を急ぎながら、追い縋る松田を冷たく一瞥すると、その眉が情けなく下がる。

「そっ、そうだよね…ごめんね、僕も聞いたの突然で…。
なんでも魅上くんも趣味で音楽やってるらしくて、今度のドラマで主題歌歌うバンドの子達と仲良いらしいんだ。
今日そのバンドも出るんだけど、それがプロデューサーの耳に入っちゃってねぇ…ドラマの宣伝にもトークだけ出てくれってとんとん拍子で話が決まっちゃったみたいで」

聞いてもないのにぺらぺらと経緯を話す松田におざなりに頷きながら、月はスタジオに足を踏み入れた。
まだ本番まで余裕があるためか、スタジオ入りしている歌手は少なく、アシスタントが客席に番組の流れを説明しているのが見える。
広いスタジオのあちこちで、照明やカメラ、セットのセッティングにスタッフ達が奔走していた。
カメラ脇でスタッフと何やら緊迫した様子で会話していたプロデューサーと目が合い、軽く会釈する。
しかし、焦りを滲ませて駆け寄ってくるその姿に、月を嫌な予感が襲った。

「ち、ちょうど良かった…キラ君!」

「どうか…なさったんですか?」

営業用の笑顔でにっこりと笑んで見せれば、プロデューサーは顔を赤く染めながらも早口に喋りはじめた。

「それが…本当に申し訳ないのだが…今日キラ君の伴奏担当になってたキーボードの子がさっき事故にあってね…。
こちらも代役を探してるんだが、何しろ急な話だから捕まらなくて…君の方でもあたってもらいたいんだが…」

「え…」

「そんなっ‥!」

松田がプロデューサーに詰め寄るが、これは本当に困った事態になった。
今回の月の新曲はバラード、雰囲気を出すためキーボードと月のみの演奏になるはずだったのだから、肝心のキーボードがいなくては成り立たない。
かといって今から知り合いをあたっても代役を見つけるのは難しいだろう…。
八方塞がりな状況に、月は我知らずぎりりと手のひらに爪を立てた。
例え月に非がないとはいえ、仕事にこのような形で穴を空けるのはプライドが許さない。

「なら、コイツにやりゃせりゃいーじゃん」

その時、突然背後からかけられた無遠慮な声に、月ははっと振り返った。
そして目に入った背の高い人影に、驚きに目を見開かせる。

魅上‥!

全身を黒でシックに統一した魅上が、そこにいた。
相変わらず、顔を背けて月を見ようとはしない。
その様子にやはり眉をしかめながら、月は声の主であろう、魅上の隣の人物に声をかけた。

「…どういうことかな?」

「だっからァ…キーボードいなくて困ってんダロ?コイツにやらせろって。
アー…てか、プロデューサーサンよ、何で俺とコイツが仲良しなんつーおサムイ話になってんスか?」

プロデューサーに対してもこの態度。
肩までの金髪と目付きの悪い三白眼、全身をごつごつしたパンクファッションで固めている。
顔の片側はケロイド状の火傷跡に痛々しく覆われていたが、それが反って鋭いナイフのような危険な魅力を引き出していた。
バンドの名前は定かでないが、この顔には覚えがある。
確か最近デビューしたばかりの新鋭バンドのボーカルだ。
つい先日移動中の車内で聞いた擦れたハスキーヴォイスが脳裏に甦った。

「それじゃあ説明になってない。君は…」

「俺はメロ。アンタ、KIRAだろ?以後お見知りおきを」

そうふざけた口調で仰々しくお辞儀して見せると、にやりと笑って手にしていた板チョコをばきりと噛み砕く。
スタジオ内は飲食禁止のはずだが、歯牙にもかけていないようである。

「コイツを推す理由はアンタの信者だから。
…つか俺がKIRAを抜くっつったらブチ切れしやがってよー言い合いしてんの見たどっかのバカが勘違いして俺らが仲良いとかフキやがって」

メロがプロデューサーを睨めつけると、プロデューサーは慌てて魅上に水を向けた。

「そっ、それで…魅上君、本当にお願いしても構わないのかな?」

受けるわけがない。

今までの魅上の態度から、メロの話を全く信じられない月は、次の瞬間、自分の目を疑った。
コクリ、と…魅上が頷いたのだ。

「六年ほどピアノをやってますし…KIRA、さんの曲は…全部覚えています」

月には顔を逸らしているが、ボソボソと低く紡がれる言葉が信じられない。

「そんな、今日やる曲は三日前に発売されたばかりだよ‥!」

松田が声を荒げても、魅上は小さく頷いた。

「大丈夫です……それも何度か弾いています」

その頬が微かに赤く染まっているように見えるのは気のせいだろうか?
驚きに目を見張る月をよそに、プロデューサーは満面の笑みで魅上の肩を叩いた。

「本当によかった!頼んだよ魅上君!」

一時はどうなることかと思われたが、人気絶頂のKIRAと魅上の共演は、番組にとっては垂涎ものである。
そうと決まればと、急いでテロップ差し替えに走るプロデューサーを横目で見ながら、メロが口を開いた。

「ま、こんくらいトーゼンだよなァ…スンゲー剣幕で俺にくってかかってきてたもんなァ…な、魅上サン?
KIRAが知らなかったっポイのが意外だケド…コイツはともかく、俺、アンタとは仲良くやりたいからさァ、これからよろしくな。
ンじゃあ、お先ー」

最後に月に向かって意味ありげに笑んで見せると、セットの方へと歩みさってしまう。
松田もスタッフに呼ばれて姿を消せば、残された二人の間に重い空気が横たわった。

「あの…」
「あの…」

同時に声を発して、また口籠もる。

「先に…どうぞ…」

先を譲る魅上の言葉に甘えて、月が口火を切った。

「…どういうことなんだ?冗談だろう?
…君は僕のことを嫌ってるんだから」

「違います‥!」

思がけないほど強く否定されて、月を戸惑いが襲う。

「でも、君は…握手も拒否したし……いつも僕から顔を背けるじゃないか…」

「それはっ‥!その、私はずっとKIRAさんに憧れていまして……まさか触れるなんて恐れ多くて…本物のKIRAさんは夢みたい綺麗で直視できなくて………それで、そのっ」

「へ………?」

今、何といったんだ?

耳を疑うが、顔を紅潮させて俯き加減に言い募る魅上は幻想ではない。
そこにはいつものクールなキャラなど欠けらも見当たらなかった。

「…元々この世界に入ったのもKIRAさんに会いたかったからですし…残念ながら歌は才能がなくて俳優になってしまいましたが……………」

「は…………?」

「今までのご無礼は承知しております………ですが、どうかどうかお許しいただけないでしょうかっ………あなたに嫌われたままだと思うと、もう生きていけない…」

「はあ……………?」

ええと、それはつまり、自分は魅上に嫌われてはいないということなんだろうか…?

まだ半信半疑ながら、月はおずおずと魅上に確かめた。

「僕のこと、嫌ってたんじゃないのか…?」

「そんな…滅相もない!むしろ逆です!月さんが子役のときから好きなんです!信じてください!」

がばりと肩を強い力で押さえられ、怖いほど強く鋭い視線に射ぬかれる。
何故か熱くなる顔を誤魔化すように、月は口を開いた。

「名前…」

「え…あっ、すいません…子役のとき夜神月さんでいらっしゃったから………ああっ、手もすみませんっ!またご無礼を…」

離れていく手が少し寂しいのは、きっと気のせいだ。
けれど、もしかしたら、これからは魅上と良好な友人関係を築いていけるかもしれない。
月は我知らずやわらかな微笑みを浮かべていた。

「構わないよ…もともとそちらが本名だし。好きに呼んでくれ。
今までのことも…こちらにも誤解があったのだし、改めてこれからよろしく…魅上君」

「………………月様…」

「KIRAさん、魅上さん、そろそろお願いしまーす!」

「はい」

スタッフの声に振り返った月は、幸か不幸か、そんな月をうっとりと見つめて、様付けで名前を呟いている魅上に気付くことはなかった。



















趣味丸出しですみません・・・芸能人な照と月です。
またアホい妄想を…本当にすみません……(死
しかも何故かメロが出張ってます・・・私何気にメロ月好きなのかもしれません(爆
けどアイドルKIRA☆って…なんてネーミングセンスの無さだよ私・・・・・・(ガクリ
照は月のデビュー当時からの熱狂的なファンで、この話では月より年下の設定ですが、幼いながらもそら恐ろしい信者振りを発揮していました。(笑
写真集やCDは閲覧用、展示用、永久保存用と三冊揃えるのは当たり前、月が一言でもコメントを載せている雑誌は全部買い集めてます。
もうヤバイくらいの信者ぶりです(笑
これはまだ続きを書きたいのですが、これからストーカーにして、マジ怖いコイツキレてる系のダークにするか、とんでもない変態だけどまあギャグ調にいくか、方向性を決めかねております。(どっちも激しく嫌だ
もしよろしければどっちがいいか教えて下されば助かります・・!(こら!
それではお目通し頂き、本当にありがとうございましたっ!!

御影








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2006.08.22