ルルとナナリーとロロがしあわせな話













『………また、俺を裏切ったんだな、ス、ザクゥ…ッ!!』

『そん、な…………ナナリィイイイイ!!!!!!!』

『ああ…お前は俺の弟だよ、ロロ………』










「……………………ッッッ…!!!」

声にならない絶叫が、血反吐を吐くような悲痛を伴って細い喉をほとばしる。
飛び跳ねるように柔らかなベッドから身を起こしたルルーシュは、その華奢な肢体をガタガタと激しく震わせた。

なんだ、今のは…ッ?

限界まで見開かれたアメジストの瞳からは、ぼろぼろと止め処なく涙が溢れ出し、ルルーシュの白皙の頬を濡らしてゆく。
ゼエゼエと荒い呼吸はいつまで経っても治まる様子がない。
まるで全力疾走をした後のようにドクドクと心臓が早鐘を打ち、全身にはじっとりと嫌な汗をかいていた。
ツウ、と、白く頼りないうなじを、またひとすじ汗の滴が伝う。
鴉の濡れ羽色の艶やかな黒髪も、しっとりと水気を含んで首筋に張り付いてしまっていた。
けれど寝間着がべったりと重く纏わりつくほど汗をかいているというのに、身体は冷え切ってしまっていて、寒くて寒くて仕方がなかった。
ガチガチと合わない歯の音を鳴らしながら、おどおどと動揺も露わに周囲を窺う。
いつものように穏やかな朝。
大きく切り取られた窓からは温かな日の光がやわらかくベッドの上まで降り注ぎ、昨日読みかけのままサイドテーブルに置きっぱなしだった本の題名まで照らし出している。
本棚とチェスボード、それとベッドぐらいしかない素っ気ない部屋は、妹の意向で可愛らしい花が散った白の壁紙とレースのカーテンで飾り立てられていた。
なんてことはない、見慣れた自分の部屋。
暗い土の蔵でも、朽ち果てた廃墟の中でも、ましてや戦場なんかでは、絶対にありはしない。

「ゆ、め………」

そう、あれは夢だ。これ以上ないほど悪い夢。
夢以外の何物でもない。そう、そのはずだ。

何度も何度も縋るように自身に言い聞かせる。
ぼんやりと窓の外に目をやると、チチ、と軽やかな鳴き声をあげて小鳥たちが囀り、木々は枝をすり抜けてゆくそよ風に穏やかに葉を揺らしている。
今日も世界は平穏だ。
なのに、何故いつまでも全身の震えが止まらないのだろう?
まるで自分一人だけが世界から取り残されてしまったような寒々しさに、ぞわぞわと全身が鳥肌を立てる。
誰でもいい、こんな馬鹿げた妄想をしている自分をそんなことあるはずがないと笑って、早く現実に引き戻してほしい。
そんなルルーシュの必死の願いを読み取ったかのように、鈴を転がすようなかろやかな声音が静かな部屋に遠慮がちに響いた。

「………お兄様…?」

ハッと声のした方を向くと、僅かに開いた扉の隙間から、ルルーシュの最愛の弟妹達の片割れが、ぴょこりと可愛らしい頭を覗かせて心配そうに此方を眺めている。
慌てて流れ続けている涙を拭い、ルルーシュはその声の主の名を呼んだ。
今だ身体の震えは収まる様子を見せないが、毛布を被っていればなんとか隠し遂せるだろう。

「ナナリー、」

固く強張った顔の筋肉をなんとか宥めて、ルルーシュは可愛い妹を心配させないよう優しい笑顔を形作った。
その笑顔に僅かにほっと表情を緩めて、ナナリーがぱたぱたと軽い足音を響かせながらルルーシュの傍に駆け寄ってくる。
そう、細いけれどしなやかに伸びた、自らの足で。

「大丈夫ですか、お兄様。…なんだか、あまり具合がよくなさそうですけれど……」

「ああ、大丈夫だよ、ナナリー。
心配させてすまない。少し、悪い夢をみただけだから。」

「…本当ですか?お兄様は優しいから…また、わたくしたちを心配させないように、嘘をついているのではありませんか…?」

ルルーシュの尋常ではない様子を見て取って、ナナリーが再びくしゃりと顔を曇らせる。
常に無い、咎めるような口調は、おそらく泣きすぎで赤く充血した眼と頬を伝う涙の跡を見とがめたのだろう。
本当に夢見が悪かっただけなのだが、この優しい妹はきっと信じないのだろうな、とルルーシュは困ったように細い眉を下げる。
いつものように心配性の弟とタッグを組んで、重病人扱いでベッドに押し込められてしまっては堪らない。
ルルーシュはわざとおどけたように肩を竦めて、妹に微笑みかけた。

「本当だよ。俺はナナリーとロロにだけはもう嘘をつかないって、この間約束したばかりだろう?
……この年で怖い夢を見て泣いてしまったなんて、やっぱり兄としては少し恥ずかしいかな。」

「…!そんなことありませんわ!わたくしもよく怖い夢を見て、たくさん泣いてしまいますもの!」

慌てて自分を慰めようとしてくれるナナリーが可愛くて、ルルーシュは今度は無理することなくくすくすと自然な笑みを零した。

「ありがとう、ナナリー。
でも皆に知られたら恥ずかしいから、このことは二人だけの秘密だぞ?
特に会長やユフィに知られたら大変だからな。」

「はい!……でも、本当に具合が悪いのでしたら、遠慮せずに言うって、約束してくださいますか?」

「わかった、約束するよ。
…それよりも、ナナリーの方こそ今日は身体は大丈夫なのか?」

「わたくしですか……?」

ことり、とナナリーが細い首を傾ける。
ふわふわと柔らかなウェーブを描く長い亜麻色の髪が、彼女の気に入りの薄桃色のワンピースに包まれた小柄な肩の上をさらさらと流れた。
そんな些細な光景すら、なんだかかけがえの無いとても尊いものに思えて、切ない痛みがルルーシュの胸を激しく刺し貫く。
再び零れ落ちそうになる涙を兄の面目で必死に堪えて、ルルーシュは震える声で頷いた。

「そ、う、だよ…随分早いけれど、もう少し寝ていなくて大丈夫なの、か…?」

僅かに揺れるルルーシュの声を少し訝しみながら、ナナリーが屈託なく答えた。

「ええ、最近はとっても調子がいいんです!
お医者様も、少しなら運動しても構わないって仰ってくださいましたの。
これでやっとお友達と、体育の授業を受けられますわ…!わたくし、うれしくって!」

「そうか…それは、よかったな…。」

「もしかすると、わたくしの方がお兄様よりも体育の授業を真面目に受けるようになるかもしれませんね」

「はは、それじゃあ俺も、ナナリーに負けないように頑張らないとな」

悪戯っぽくこちらを窺う可憐な菫色の瞳を見つめて、ルルーシュはやわらかく眼を細めた。
可愛く優しい妹は、生まれつき少し身体が弱いけれど、それも人並みの生活を送るには全く支障ない。
穏やかで可憐な面差しを彩る大きな瞳はきらきらと希望を宿して輝いて、けして闇の中に閉ざされたままになどなってはいないし、元気に走り回ることはできないけれど、白くか細い脚はそれでも軽やかな足音を立てて自由に跳ねている。
重く不自由な車椅子に縛り付けられていたことなど一度もない。
だから、あれは、絶対に夢なのだ。
ただのくだらない夢。
その証拠に、夢と現実はこうもかけ離れているではないか。
何より、妹はあの夢の中のように、いつも憂鬱を湛えて表情を曇らせていることなどない。
あんなにも寂しげな、胸を引き絞るような悲しい笑顔を浮かべることなど、絶対に、ない。
ルルーシュの知る妹は夢の中と違い、少し人見知りするところもあるがもっと無邪気で明るく、先程のようにルルーシュを揄うような少女らしい可愛い悪戯心だって持っている。
全然、違う。だからルルーシュからナナリーが引き離されることなどあるはずがないし、ナナリーに拒否されることなどありえないし、ましてや―――――――――。
その先を思い浮かべることすら、おぞましくて、たまらない。
ルルーシュは込み上げる吐き気を抑えて、顔を俯けた。

「お兄様…!やっぱり、何処か悪いのですか…!?」

悲鳴のような声をあげて、ナナリーは蒼褪めて蝋のように白くなった兄の顔を心配そうに覗き込んだ。
その声を聞きつけたのか、開け放したままの扉の外から、誰かが駆けつけてくる足音が聞こえてくる。

「ナナリーっ!?兄さんが、どうかしたの…!?」

ナナリーによく似通った優しげな風貌の少年が、息を切らせて部屋の中に飛び込んできた。
ナナリーと同じ菫色の薄紫の双眸を曇らせて、短く切りそろえた亜麻色の髪をくしゃりとかきあげる。
一緒に母の腹から生まれ落ちてきた片割れをおろおろと見上げると、ナナリーは縋るように彼の名を呼んだ。

「ロロ…!お兄様の具合が、よくないみたいなんです…!」

「なら、早く医者を呼ばないと……!」

状況を聞くなり携帯を握りしめてすぐさま部屋を飛び出ようとしたロロの背を、ロロが敬愛してやまない、大事な大事な兄の、細い声が呼び止める。
ルルーシュは溺愛している双子の片割れに、弱々しい微笑みを浮かべて見せた。

「………医者はいい。ありがとう、ロロ。少し眩暈がしただけだ。」

「でも、兄さん…」

「大丈夫、少し休めばすぐ直るさ。
ナナリーも、心配をかけてすまないな。」

「はい……」

二人とも全く同じ、不服そうな色を顔いっぱいに浮かべてルルーシュを見つめている。
姿どころか浮かべる表情までよく似た双子の姿に、ルルーシュは思わずくすりと頬を緩めた。
まだ夢のことを考えるだけで気分が悪くなるけれど、弟妹たちと会話をしているうちにその胸糞悪い記憶も段々と薄れていくのを感じてほっとする。
けれど。

「ロロ、それ…」

ふと、ロロの手に握られた携帯のストラップに目を奪われて、ルルーシュは言葉を無くした。
白いハート型の小さなロケット。
夢の中の弟もとても大事そうに持っていて…そうだ、あれもこれも、自分が彼に贈ったものだ。
でも、夢の中では弟は弟ではなくて、けれど、それでも、確かに彼は自分の弟だった。それで………駄目だ、これ以上考えては。
ルルーシュはゆるゆると力なく首を振って、それ以上の思考を追い払った。
もう既に先程のように胸が激しく痛み始めているが、さすがにまた二人の前で具合が悪そうに振舞ってしまったら、今度こそ誤魔化すことはできないだろう。
なんとか微笑みを繕って、ルルーシュは先を続けた。

「それ、気に入ってるのか…?」

「……?これのこと…?」

ロロが携帯を持った手を掲げて、ストラップを顔の前に翳す。
二コリと満面の笑みを浮かべて、ロロは大きく頷いた。

「当り前だよ。だって、兄さんが僕の誕生日にくれたプレゼントじゃないか。
僕にとっては、兄さんのくれたものは全部、どんな宝石よりも価値がある大切な宝物だよ。
……突然そんなこと聞いて、どうしたの?」

「……………そうか。」

きょとりと不思議そうに首を傾げる弟を、ルルーシュは眩しげに見つめた。

「…ああ、男のお前にはちょっと可愛らしすぎたかな、と思って。
実はずっと、気に入ってくれているのか心配だったんだ。」

「兄さんがわざわざ僕のために選んでくれたんだもの、僕が気に入らないわけないじゃないか。
そんな当り前の事を聞くなんて、変な兄さん。」

くすくすと可笑しそうに笑うロロにつられて、ルルーシュも優しく瞳を緩めて笑う。

「もしロロが気に入らないのでしたら、わたくしがいつでも貰いますからすぐに言ってくださいね、お兄様」

ナナリーもくすくすと笑いながら、ロロをからかうように見上げた。
ロロがむっと眉を寄せてナナリーを睨む。

「ダメだよ、これは兄さんが僕に、くれたんだから。」

「そうだな…もしロロにいらないって言われてしまったら、頼むよナナリー。」

「兄さんまで…!もう、いくら兄さんが返せって言ったとしても、僕が一度貰ったものなんだから、絶対に返さないからね。」

不機嫌そうに顔を顰めているロロを見て、ルルーシュとナナリーの楽しそうな笑い声が上がった。

ああ、なんてうつくしく、しあわせな時間なのだろう。
このときが、永遠に続けばいいのに。

アメジストの瞳をやわらかく眇めて、ルルーシュはしみじみと弟妹達と過ごす穏やかで優しい時間の幸福を噛み締めた。
あんな不吉で忌まわしい悪夢などを見てしまったせいか、いつも何気なく過ごしていた日常が、とても大切でいとおしいものに思える。

(……いや、)

ルルーシュは、心の中で一人ごちた。

続けばいいのに、ではなく。
続く、のだ。永遠に。
だって世界はこんなにも平和で、希望の光に満ち溢れているのだから。

ルルーシュの知る限り、世界情勢はいたって安定しているし、血なまぐさい戦争なんて何十年も前に廃れてしまって、今やその文字も本の中でぐらいしかお目にかからない。
ブリタニアはたしかに大国だがあんな独裁国家ではなく、国際社会の取りまとめ役として中華連邦と手を取り合って、間違ってもかつての大戦のような悲劇を繰り返さないように平和維持に努めている。
何も不安なことなんて、ルルーシュ達のしあわせな生活が壊されてしまうような要素なんて、欠片も存在しないのだから。

チリリン、

その時、玄関ベルの鳴らされる音が廊下から大きく響いてルルーシュ達に来客を知らせた。

「あ!」

ナナリーが、ポン、と軽く手のひらを合わせて声を上げた。

「そういえば、ユーフェミアお姉さまがコーネリアお姉さまと一緒にケーキを焼いたのですって!
先程一緒に届けにいらっしゃるとお電話がありましたのに、わたくしったらすっかり忘れてしまっておりましたわ…!」

「あのユフィが、よりによって姉上と…?いや、それより随分早いな…」

「徹夜で頑張られたんですって。お姉さまたち、きっと、お兄様に早く食べて褒めて頂きたいのだわ。
だって、わたくしならきっとそう思いますもの!」

「ナナリーの作るものなら何でも美味しいに決まってる…!……じゃなくて、あの二人、大丈夫なのか…」

ルルーシュはヒクヒクと頬を引き攣らせた。
近所に住むコーネリアとユーフェミアの姉妹達とは実の兄弟のように仲が良く、互いの家をよく行き来している。
ルルーシュ達兄弟は早くに両親を無くしてしまったが、親戚筋にあたる二人の両親が後継人となって面倒を見てくれたお陰でこうして何事もなく兄弟揃って生活できている今があり、いくら感謝してもしきれないほどだ。
けれど裕福な資産家で、何事も使用人達がこなしてくれる生粋のお嬢様な姉妹は、料理はもちろん、掃除だってろくにしたことはない。
ユーフェミアは天然ゆえのうっかり(とてもうっかりで済まされるレベルではないのだが、本人的にはうっかりしていましたわ〜程度らしい)でいつも騒動を引き起こしてくれるし、コーネリアは父親の経営している商社でキャリアウーマンとして男に混じって働いているせいか、こういうことに関しては壊滅的に不器用だ。
男手一人で弟妹達の世話を見ているルルーシュは料理、洗濯、裁縫、掃除等の家事の一通りは人並み以上にこなせるのだが(完璧主義なので、何事にも手を抜けないのだ)、以前手伝うと言い出して譲らない二人に仕方なく折れて仕事を任せてみたら、見るも無残な大惨事になってしまった。
何故、ただボタンを押すだけでOKなはずの電子レンジを黒こげに爆発させられるのか。
どうやったら、洗濯量に応じて既定の洗剤量が明記されているはずの洗濯機を、バスルームごと泡だらけにできるのか。
真剣に教えてほしい。
そんな二人が、徹夜でケーキを………屋敷の惨状を思って、ルルーシュは後始末に頭を抱えているだろうメイド達に同情の念を送った。
いや、それよりもこれからそのケーキを食べさせられる自身の無事が、とてつもなく怪しい。

「あ。」

ルルーシュが身の安全を危ぶんでいると、ロロも思い出したように声を上げた。

「そういえば兄さん、僕も、会長から今日生徒会のみんなを連れてくるってメールがあったんだ…この間兄さんがなんとか誤魔化してた、男女逆転祭の学外PRポスターに使う写真の件。
あれ、やっぱり兄さんの女装姿が一番ウケがいいから、それにするって。
『前は逃げれちゃったからぁ〜、今度は女子制服より恥ずかしい、フリッフリのレースがいーっぱいついた純白の花嫁衣装着せるわよん★ロロ、ルルーシュが逃げないように捕まえといてねー★』って書いてあって…それで僕、兄さんに逃げるように言おうと思って起きたんだ…」

「なッ………なにぃ…っ!!!!」

今すぐ逃げなければ…!!!
ルルーシュは慌ててベッドから降りようと足を床に下ろした。の、だが。

チリリーン!チリリーン!リリリン!

先程までとは明らかに異なる、忙しなくが鳴りたてるベルの音がルルーシュの動きを止める。
こんな鳴らし方をするのは、お嬢様らしく優雅な振る舞いを見せるユーフェミアたちでは絶対にない。
まあ、今ルルーシュの脳裏で悪魔のような笑みを浮かべている人物も、一応、お嬢様にあたるはずなのだが…。

「まさか……」

どうか違っていてくれというルルーシュの淡い期待は、悲しいかな、予想に違わぬ人物の、ドンドンドン!と借金取りのように扉を叩いて大声で叫ぶ声にあっさりとかき消された。

『ルルーシュー!ここにいるのは分かってんのよおー!
既に貴方はアッシュフォード学園生徒会に包囲されています!観念してさっさとこの扉をあけなさ〜い!!』

『ちょっと、会長〜!』

朝から元気すぎるミレイを必至で窘めているシャーリーの声も届いてくる。
遅かったか……。
ルルーシュはガクリと肩を落として、大きなため息を吐いた。

『あらあら、まあまあ!それはとても素敵ね!』

『でしょう〜!』

ミレイの剣幕に興味を持ったらしいユーフェミアが、彼女のろくでもない計画を聞いたのだろう、はしゃいだ声を上げている。
この様子だと、ルルーシュをからかうことを楽しんでいる節のあるコーネリアも、きっと赤い口紅に彩られた形良い唇をさも楽しげに吊り上げて、賛同しているはずだ。
扉が蹴破られてしまう前に、おとなしく招き入れた方が無難かもしれない。
まだなんとか口先で誤魔化せるかもしれないしな……おそらく女性陣に玩具にされてしまうのだろう未来を努めて考えないよう悪あがきの算段を立てながら、ルルーシュはロロを見上げた。

「ロロ、悪いが扉を開けてきてやってくれないか…?」

「いいけど兄さん…大丈夫なの?」

「……まあ、玄関を破壊されるよりかはマシだろう。このまま籠城していても、会長ならそれぐらいはやりかねないからな…。」

諦めを多分に含んだ、何処か遠くを見るような視線で呟くルルーシュに心配そうな視線を送ってから、ロロが踵を返してルルーシュの部屋を後にしてゆく。
俄かに騒がしくなった周囲に頭を抱えるルルーシュを見て、ナナリーが嬉しそうにころころと笑った。

「よかったですわ。お兄様も、すっかり顔色が戻ってらして。
わたくし、本当はどこかお病気なのかもしれないと、すごく心配でしたの」

「あ……。」

そういえば、いつのまにか全身の震えが収まっている。
あんなに感じていた寒さも、すっかり消え去ってしまっていた。

「ふ、……ふふ、あははははっ!」

「おにい、さま…?」

こらえきれない衝動が、ルルーシュの薄い唇を割って漏れ出てくる。
くく、と笑いを噛み殺しながら、ルルーシュは心配そうに兄を窺うナナリーの頭を優しく撫ぜた。

「いや…、なんでもないんだ。ただ、しあわせだなあって、思っただけだよ。」

こうやって騒がしく温かな日常が、悪夢の苦い余韻なんて嫌でも木端微塵に吹き飛ばしてくれるんだから。
いや、もしかすると、悪夢なんかよりもずっと性質が悪いかもしれないなあ。
常なら騒動に巻き込まれるのにげんなりとした顔しか見せない兄が、いつになくやわらかい表情を浮かべて笑っている。
それが何故だか分からなくて頭にたくさんの疑問符が浮かぶけれど、大好きな兄に撫でてもらえたのが嬉しくて、ナナリーも頬を上気させて二コリと微笑んだ。

「???……なんだか分かりませんけれど、お兄様が嬉しいのでしたら、わたくしもとってもうれしいです!」

ルルーシュの慣れ親しんだ日常達が、ドタドタと騒がしい荒い足音を立てて近づいてくる。
また荷物持ちでもやらされているのか、かいちょお〜とリヴァルの情けない悲鳴も耳に届いて、ルルーシュはその白皙の美貌をふ、と穏やかに緩めた。
紫水晶の瞳を静かに閉じて、いつだって自分を優しい現実に引き戻してくれるそれらを待ち受ける。
もう、自分の中から、身の引き裂かれるような悲痛な慟哭が聞こえてくることは、なかった。



















今の展開があまりにもつらすぎて、突発的に書いてしまった自己満足すぎるお話です…ううう。
そういえば、ホモじゃない話書いたの初めてじゃないか私よ…!(爆)
あ、ロロはガチですけど!(黙りなさい
お鬼畜兄上とかご近所さんな幼馴染スザクとか、ルルーシュの一つ後輩でどんなにウザがられても懐いていくジノちゃまとか、ルルーシュ様お可哀そうに…!このジェレミアがお守りいたします!な過保護すぎる元使用人とか出そうかなーとかちらりと考えたんですが、まず間違いなくルルーシュが幸せじゃなくなるのでやめました…(笑)
やおいじゃないけど特にヤマもなく落ちもなく意味もない…でも書いててオッサン幸せだったからいいんだ……本編でもルルには幸せになってほしいです…頼むから…!
ただの私の自己満足話で申し訳ないのですが;、ここまで読んで頂いて本当にありがとうございました…!こう…少しでもなごんで頂けたら幸いです…。
あーヨッシこれでまたルルーシュ嬲る妄想に戻るぞ…!(うおおおい!

御影








※ブラウザバックでお戻り下さい。


2008.08.19