愛猫











――――――あれからどのくらいの月日が流れたのだろうか。

ほんの数日前とも、もう随分昔のことであるとも思える。
青髪の男の手を振り払って、直感のままに左の路地をひたすら駆け抜けた、あの日。
敏感な皮膚を鋭い鉤爪で引き裂かれ、うなじに思う様歯を立てられながら、流れる血をすすって笑う処刑人を見た。
次に意識が浮上したときには見知らぬ部屋に放られていて、戻ってきた処刑人になぶられて漸く自分が捕われたことに気付き…そして今に至る。
はじめのうちはただ憎かった。
痛みを与え、苦悶の表情を悦んでいることに恐怖した。
だだっ広い打ちっぱなしのコンクリートの部屋。むき出しの蛍光灯。黒いシーツの敷かれたベッド。それと――傷んだ金髪の処刑人。
それだけが俺の全てであり、世界の全てであった。もっとも、それは今も変わらないが。
処刑人も人間だ。
狂気に彩られた時間の中で、ふとした時に垣間見える子供のように無邪気な表情。
それ、はゆっくりと俺の中に染み込んでいった。
嬉しげに今日の戦利品だと血で赤く染まったタグの束を振り回す事もあれば、時には縋りつくように俺を抱き締めたまま眠りについた事もある。
そんなとき、憎しみも殺意も抱かなくなっている自分が分からなかった。
子供のように必死に俺を抱き締める腕に、殺意の代わりに浮かんだのは抱き締めて撫でてやりたいという思いだけで。
まるで甘い毒のように・・・じわじわと俺を蝕んでゆく。
初めてそれを実行したときのことは、よく覚えている。
眠ったのを確認したはずなのに、電流が走ったかのように跳ね起きて、長い前髪の間から驚愕に満ちた眼で呆然と俺を見つめていた。
そして低く擦れた声で「…もっと」と小さくせがんで俺に続けさせながら、まるで母の腕に抱かれた幼子のように眠りについた。
今では当然のようにそれが毎日の就寝儀式となっている。
しかし変化が生じたのは俺だけではなく。
また共にいる時間を重ねるうちに、その変化は顕著になった。
瞳を眇めて、とろけそうな甘い声で名を呼ばれる。
「俺の大事な大事な子猫ちゃぁん…」と囁かれながら、本当の猫のように喉元と頭を撫でられる。
もちろんいたぶられることもあるが、自らがつけた傷を辿り、うっとりと俺の名を呟く様はそれまでと違って愛おしんでいるように見えた。
俺の中に、撫でられて喉を鳴らす俺がいる。
その事実に気付いたとき、俺は自分が猫になったことを自覚した。
飼われていることも、飼い主が誰であるのかも。



「アキラァ…」

甘く名を呼ばれ、黒いシーツの海に横たえていた身体を起こす。
赤い首輪の鈴がチリンと鳴った。
近づく気配にも振り向かずにいると、耳朶を甘噛みしながら全身に手を這わされる。
長い指が揃いでいれられたタトゥーの上を滑り、一糸も纏わない肌はなんなくそれを受け入れた。
それでもそっぽを向いていれば、今度は両の乳首を飾る細い銀の輪をいじくられる。

「…ぁ‥っ…」

名を呼ばれたときから反応していた身体は、それだけの愛撫でも簡単に燃え上がる。
完全に勃ちあがって雫を零すものの先で、小さな十字架のついた細い銀の輪が震え、その様を見て低く笑うグンジの左耳にも同じ十字架が光った。
漸く振り向いて、潤んだ瞳で見つめてくるアキラに、満足げにグンジの双眸が細められる。

「まァったく…オレのかっわいーィこねこちゃんはァ、今日は何が気にいらねぇのかなァー?」

咎めるような言葉を裏切った甘い口調。
今日こそは許さない、ときつく睨みあげたはずの灰色がかった翠の瞳はとろりと潤んで、既にねだるような視線に変わってしまっている。

「・・・だって・・・・・・・・グンジがわるい・・・・・・・・・・・」

「あぁん?だってじゃワカンネェーっつーの」

「・・・・・・・・・・おれ、グンジといっしょに行きたかったのに・・・・・」

途端ハァー・・・っと溜め息を零されて、アキラの白い額にムッとしわが寄った。
そんなアキラをよそにグンジはあーだのうーだのと呻きながら痛んだ金髪をぐしゃぐしゃとかき回している。
その荒々しい所作にアキラが小首を傾げていると、唐突に目の前の巨体に圧し掛かられ身体の自由を奪われた。

「んっ・・・・・ふ・・ぁ・・・・・・・あぁっん」

そのまま貪る様に口付けられて、唇からどちらのものとも知れない唾液が零れ落ちる。
更には、先程から煽るだけ煽られて中途半端なまま放置されていた自身にも手を伸ばされて、こらえようのない艶やかな喘ぎ声が次々と漏れた。

「・・・っだぁああああああーーーーー!やべーやべーマジやべーって!
なぁんでアキラはんなに可愛いかなァ・・・・そんな可愛いことばっか言ってっと俺もうお前のこと本気で喰っちまうかも。」

うっとりと頬を摺り寄せられて、少しだけ、損ねた機嫌が上昇する。

「そのときは、血の一滴ものこすなよ」

ちいさくわらって飼い主にひとつ、唇に触れるだけのささやかなキスを落とす。
そうして、もうこの話には興味がないとばかりに行為の続きを催促して甘えるように下肢を擦り付けた。
今はただ、身体の奥に燻るこの熱をどうにかしてもらいたかった。



















やっちまいました・・・文章書いたの初めて・・・。(爆
しかもいきなり咎狗の壊れアキラのグンアキ・・・ハハハ、思いっきり趣味入ってますNE!(撲殺

御影








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2005.09.12