アストロッド・サーガ妄想











とろり、と芳醇な甘い香が贅を凝らせた部屋に漂う。
そこここに灯された蝋燭が赤々と燃え、ちらちらと闇と光が踊っていた。
深紅の垂れ幕の奥、豪奢な寝台の上にひっそりと座り込んでいる麗人の滴るような蜂蜜色の黄金も、いまは薄赤く、日の終わりに散りゆく夕日の色に染まっている。
その白く小さい端正な横顔は、ほの暗く照らされて物憂げな影を刻んでいた。


―――アストロッドは戸惑いの中で宵闇の薄紫の瞳を瞬かせた。
長い睫毛が繊細な金の飾りのように双眸を縁取り、そのはかない陰影がすべやかな頬の上を頼りなげにゆれる。
目が覚めれば見知らぬ場所にいて、何故、いつここに来たかも定かでないままもう判刻以上もこうしてじっと座りこんでいる。
シェラバッハの元に捕われていたはずなのに―…一体、誰が?
その問いに答える者があろうはずもなく、小さく唇にのせた言葉は部屋の暗がりに溶けて消えた。
どれくらい、そうしていただろうか。
ふいに、部屋中に満ちた濃密な空気が動いた。
この窓ひとつない閉じた世界で唯一、外界と繋がる重厚な扉が音もなく開き、一筋の真白き光が細く、血溜りのような長毛の絨毯の上を這う。

「…あに、う、え‥?」

アストロッドはひとつ、長い睫毛を震わせると、いかぶるように問うた。
扉の向こうからは兄の持つ、底知れぬ、微かな光も射すことの叶わぬほどに凝り固まって膿んだ闇の気配が、確かに感じられる。
未だ兄に囚われの身であるのかと、アストロッドを軽い失望が襲うが…それは、一瞬の事であった。
なにかが、違う。
兄と同じ、強い闇の魔力を感じるが――…何処か、違和感を感じる。
アストロッドは、つとその形の良い眉を寄せた。
アストロッドとて、伊達にこの世にたった二人の闇の眷属の片割れとして生きてきたわけではない。
互いが互いの半身であり、唯一、同じ痛みを分かち合えるもの。
誰が分からずとも、自分が兄を間違えようはずがなかった。
違う。
これは、強く、美しく、誰より冷酷でありながら、その身の内に全てを焼き尽くす激情を孕んだ兄ではない。
あの切ないほどに狂おしい視線で、胸のうちを掻き毟る兄では、ない。
だとしたら、兄のもとから自分を連れ出したのは誰なのか?

「…おまえは誰だっ!
わたしが何者か、承知の上での狼藉か!」

激しい誰何の言葉が、それに見合わぬ軽やかな声音で響き渡る。
この世界に生きる闇の眷属は、兄と自分、ただ二人のはず。
そして、異層のものは大気に触れれば消えゆく存在。
兄でないとするならば、一体誰が、いや、何がこのような強い闇の力を持ち得るというのか。
加えて、兄のもとにいた自分をここまで連れ出してきたのだ。
むざむざ兄がそれを見逃すとは、思えない。
アストロッドは甘やかな瞳を鋭く眇めて、目の前の格式高い扉を睨み付けた。

「…本当に、あなたは全く変わらないな…。」

が、聞き慣れた声音が聞こえて、アストロッドは宵闇の瞳を丸く見開いた。
記憶の中のものよりも影が増したように思われるが、自分が聞き間違えるはずがない、その低く甘い声は間違いなく彼のものであった。

「……る…シア……?」

答えるように扉が開き、記憶と寸分違わぬ甘やかな美貌と、鍛え上げられたしなやかな体躯が現れる。
明るい金髪が蝋燭の光を弾いて、鈍く光った。

「そうですよ…あなたのルシアです。
…やっと会えた。俺の、姫。」

眩しいものを見るように瞳を眇めて、やわらかくわらう、彼。
信じられなかった。
あのルーディルンの地下通路で別れたきり、もしかしたら…と幾度胸を痛めたことか。

「ほ、んとうに…ルシア、なのですね……。
…よかった…会いたかったっ‥!」

熱いものが込み上げる。

「…俺も、会いたかったですよ。
もうずっと……狂いそうなくらいに、ね。」











終…?








角川書店ビーンズ文庫深草小夜子先生著アストロッド・サーガシリーズの新刊が出た時に、萌えの勢いで書き殴ったやつです……私ってやつぁまた自分だけが楽しいブツを…(爆)
闇の眷属と人との間に生まれた兄弟の愛憎話で、体も弱く、兄のような強い力を持たない弟アストロッドは、コンプレックスばりばりの超卑屈で陰険な性格。自堕落に日々を暮らすロクデナシです。
兄はそんな弟を溺愛しているけどちっとも報われず(笑)、伴侶にするとか言いながら絶世の美姫の体に弟を閉じ込めます。(えぇ
簡単に言うと、そんな兄の勝手にされてたまるか!と逃げ出したアストロッド君が、心根も美しい体の持ち主ナシエラに恋をし、紆余曲折を経て更正されていく話。(私主観
ほんとは小さいころアストロッドをいじめまくってた冷血漢キース×アストロッドが本命ですが、本誌でそれは絶望的だろうな…(泣
オレンジ髪のあのこも好きなんですがねぇ…(‥`
ちなみに兄×弟スキーの同士さんも募集中v
元が小説だからか、二次創作サイトさんなくて淋しい…同じとこから刊行されてる○マは多いのになぁ(私も大好きですv特に醤油がv)…
そしてまた、中途半端なとこで終わる…(死
最近、思いついたら最後まで一気に書き上げないと書きたいこと忘れることに気が付きました…(今更かYO!

御影








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2005.12.24