チョコレート・マシュマロ











執務室に響いた軽いノックの音に、綱吉は肩をビクリと跳ね上げた。

「はっ、はい、どうぞ〜」

本日は珍しくリボーンがまだ顔を見せていないため、言い付けられていたややこしい書類の整理を放ってここぞとばかりにダラけていたのだが…もう十年来の付き合いになる家庭教師が笑顔で銃を突き付けてくる光景が容易に想像できて、綱吉の顔が恐怖で引き攣る。
が、リボーンならばノックなどと殊勝な真似はせず、(激しく遠慮したいが)気がついたら背後から銃を突き付けているパターンの方が可能性は高い。
守護者達もそれぞれ仕事で遠方に向かってもらっている今、誰が訪ねてきたのだろうと首をひねる綱吉の前で、繊細な細工が彫り込まれた木造の扉が開いて白髪の長身がひょっこり顔を覗かせた。

「コンニチハー」

日本語の挨拶を口にして人好きのする笑顔を浮かべた美青年は、確か最近ボンゴレ傘下に入ったばかりの新興ファミリーのボスだったはずだ。
ミルフィオーレファミリーは、ご法度となる麻薬や兵器売買に手を出す事も無く、健全な(とは言い難いが)カジノや風俗業運営、政財界の用心棒請負等で確実にその勢力を強めている。
本日会合の予定は無かったはずだが、部下も伴わずに綱吉を訪れるなどと何かあったのだろうか。
綱吉は軽く首を傾けた。

「こんにちは、Mr.白蘭。
日本語が上手だね。覚えたの?」

「白蘭でいいですよ、ボンゴレ。
ええ、十代目ともっと仲良くなりたかったので」

本気か冗談か分からない笑顔で白蘭が答える。
始終笑顔を浮かべているが、何処か掴みづらい底の知れない態度に、綱吉はかねてより白蘭に苦手意識を持っていた。
頼りになる家庭教師も不在の今、やりづらい相手との対面は早く終らせてしまったほうがいい。
綱吉は手っ取り早く白蘭の用件を尋ねた。

「それで、今日は部下もつけずにどうして此処へ?会合の予定は無かったと思うんだけど…」

「ヒドイな。用事が無くっちゃボンゴレに会いに来たら駄目なんですか」

「そんなことないけど…え、本当に何も無いの?てっきり何か緊急の用事があるのかと思った」

「ええ、モチロン。俺がボンゴレに会いたかっただけですよ」

さらりとそんな台詞を口にできる白蘭は、さぞかし女性にモテるのだろう。
だが生憎と、中々女性に相手にしてもらえない綱吉にはイヤミにしか映らない。
それに未だ得体の知れない白蘭だからこそ、何か裏があるのではないかと疑ってしまうのも仕方がなかった。

「……本当にそれだけ?」

「ちょっと顔を見たかっただけだし、もう十分満足ですよ。それもラッキーなコトに二人っきりだしね。
そんなに急かさなくても、すぐに帰りますから安心してクダサイ」

そんな綱吉の心中を見透かすかのように、ニコリと白蘭が笑顔を浮かべる。
慌てて否定する綱吉に頓着することなく、白蘭は先を続けた。

「急かすなんて、そんなことは―――」

「ああ、そうそう。それと、これを受け取って貰えたら、すぐお暇するんで」

そう言いながら、部屋の中央に設置されたアンティークの応接セットを過ぎ、執務机を挟んで綱吉の前に白蘭が立つ。
その手には、いつの間に何処から取り出したのか、マシュマロの入ったカラフルなパッケージの袋が握られていた。
そういえば、よくマシュマロを口にしているのを目にするから好物なのかも、などとどーでもいい思考が綱吉を掠める。
白蘭が切れ長の瞳を僅かに細め、唇をニィと吊り上げて愉しげに嗤った。

「俺、本気だから。覚悟してね、綱チャン?」

え?
突然間近から響いた声に、綱吉が驚いて顔をあげた時にはもう遅かった。

「…っ…………ん!」

白蘭の薄く整った唇が綱吉のそれに重なり、驚愕に緩んだ歯列の間に柔らかい何かを押し込んでするりと遠ざかる。
あまりの事態に呆然としたまま、惰性で口の中に押し込まれたものを噛み砕くと、ふんわりとした感触の中から甘ったるいカカオの香りが口中に広がった。

「チョコ…レート?」

「そ。ウチの日本人の部下から、今日は日本では好きなヒトにチョコレートを渡して告白する日だって聞いたもので」

「そういや…バレンタインデーか……」

日本を離れて長く、母や京子達は今だに義理チョコを送ってくれるがいつも数日遅れで到着するためすっかり失念していた。
どうりで先日守護者達が(特に自称右腕)今日にはなんとしても帰ってくると喚いていたはずだ。(何故か中学の頃から守護者達にチョコをもらうのが習慣になっていて、所謂友チョコのようなものだと綱吉は納得していた。男同士うんぬんに突っ込んで拒否すると恐ろしい事になりそうだったのでそれ以上考えないことにしている)

「じゃ、そーいうコトで。俺の言った事、覚えといてくださいね?」

そう言い残し、再び爽やかな笑みを浮かべて白蘭は颯爽と部屋を後にしていった。
嵐のような来訪に、呆然としたままの綱吉は夢ではないのかと自分を疑うが、残念ながら執務机の上に残されたチョコレートマシュマロの袋が現実であったことを如実に物語ってくれている。

「大体、日本ではそれって女子から男子へって事なんだけど……結局何がしたかったんだろ」

ま、いいか。
何事も面倒くさくなるとすぐに投げ出してしまうのは綱吉の悪い癖だ。
守護者達だけでも手一杯だというのに、また一人新たに厄介な相手に目を付けられて、綱吉はハアーッと重い溜息を吐き出しながら広い机の上に突っ伏した。



















ネタ思いついたので急遽アップ。
一応十年後設定ですが、白蘭さんについてもまだ全然判明してないにも関わらず模造しまくりで突っ走りました…本誌で詳細明かされた場合は見ないふりしてやってくださいませ。(笑)
とりあえずチョコレートマシュマロっておいしいよね!って話!(うおい!
…あと正直白蘭さんの喋り方が分からないんですがどうしよう。(爆
白蘭さんが偽者すぎてすみませんっ;

御影








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2008/02/14