お祭りひばつな妄想











「ハァ…まったく、ドコいっちゃったんだよあいつら…。」

綱吉は小さくため息をついて、古びたベンチに座り込んだ。
緑のペンキも剥げかけた背もたれがぎしりと軋む。
今日は日曜日。
綱吉にとってはリボーンのスパルタ教育に耐え抜き、周囲で起こる騒動(主に自称右腕とか右腕とか右腕が原因)に巻き込まれながらなんとかたどり着いた休日である。はず、だったのだが。
ごろごろと昼頃まで布団にしがみついていたところを、「つっくん〜?まだ寝てるの、もうお昼よ!暇なんだったら今日はお祭りがあるから、ランボちゃんたちを連れていってあげてね」と笑顔で送り出されてしまったのである。
駄賃に少し多めに小遣いを貰ってしまったから、文句も言えない。
なんでも春の訪れとその年の豊作を願って、近所の神社で毎年行われているものらしいが…来てそうそうぶどう飴(最近はそんなものも出来たらしい。前はりんご飴しかなかったのに)とお面を手にランボとイーピンは姿を消してしまった。
一応、しばらくはウロウロとあたりを探してみたのだが、あまりの人込みにまっすぐ歩くことさえままならない状態では、当然探し出せるはずもなく。
少し時間をつぶそうと、仕方なく綱吉は人気のない神社の裏手へと回りこんだのだった。
そういえば、俺も昔父さんにこの祭りに連れて来てもらったよなあ…。ランボみたいにはしゃいでたっけ。
神社の裏にある小さな林の中は、表とは別世界のように静かである。
遠くに聞こえる喧騒に幼い自分を思い出しながら、綱吉は懐かしさに目を細めた。
ガサリ、
しかし唐突に落ち葉を踏み締める音が静寂を破り、びくっと身を竦める。
まさかっ、野犬…?
大の犬好きではあるが、動物にはことごとく毛嫌いされている綱吉だ。
もしかして襲われるかも…とびくびくしながら振り返った先には、呆れたように綱吉を見下ろす黒い瞳があった。
いつものように肩にひっかけた学ランに、風紀の腕章が揺れている。

「ひっ、ひばりさ…?」

「フン、なにおびえてるの?
ホントにきみって小動物だよね。」

正体も確かめないうちから怯えていた綱吉を鼻でせせら笑い、ずかずかと歩み寄ってきた雲雀は当然のように綱吉の隣に座った。
二人分の体重をかけられて、だいぶ脆くなっているベンチがぎいぎい悲鳴をあげるがおかまいなしだ。

「あの、雲雀さんもお祭りに…?」

「ああ、ショバ代のことでちょっとね。
祭りの風紀を乱すバカがいないか監視してたんだけど、きみがこっちに行くのがみえたから。」

「は、はあ…」

ショバ代って……。
顔を引き攣らせる綱吉をよそに、雲雀がごそごそと懐をさぐる。

「ああそうだ。コレ、あげるよ。
きみってこーゆーの好きそうだから。」

つきだされたものに、綱吉は目を丸くした。

「これは…」

赤い丸の上部に小さい赤い丸がふたつ。どうやら耳と顔をかたどっているようだ。
長い竹の棒に突き刺された物体は、明らかに某ネズミーを模している。

「かわいいでしょ?耳はぶどうで顔はりんごだって。
さっき食べたけどおいしかったよ。」

食べたのか。コレを。あの雲雀さんが!
想像するだけで怖すぎる…!

「あ、ありがとうございます…!」

綱吉は出来るだけその光景を想像しないようにしながら、先に買っていたお守りの入ったビニール袋にそれをしまった。
あとでイーピンにでもあげよう。
さすがにこの歳で俺がりんご飴食べるっていうのも恥ずかしいしなあ…。
しかし雲雀に鋭い眼光で睨まれて、綱吉は蛇に睨まれた蛙のようにぴたりと全身の動きを止めた。

「あ、あの…?」

「ねえ、食べないの?」

むすっとした声で雲雀が言う。
綱吉は顔を青ざめさせた。

「いや俺昼ご飯食べたばかりだし、あとで…」

「食べないの?」

「…………ハイ!よろこんで食べさせていただきますともォ!」

涙目になりながら、引き攣った笑顔を浮かべてコクコクと頷く。
しまっていた飴を取り出して被せてあった袋を取ると、ようやく雲雀は納得したようだった。
恐る恐るひとくち、舐めてみると、甘ったるい味が咥内にひろがった。

「…おいしい?」

「は、はい…!」

「………そ。」

それからは会話もなく、しばらく沈黙が続いた。
綱吉がりんご飴をかじるしゃりしゃりという音だけが、小さく響き続ける。
おどおどと雲雀の様子を伺うが、満足そうな表情で揺れる梢を眺めていたので、綱吉はほっと胸を撫で下ろした。

「…つなよし」

「はい…?」

視線に気付いたのだろうか、呼ばれて顔を上げると雲雀がこちらを向いていた。
くすり、とその端正な口元が吊り上がる。

「ついてる。」

「ぇ…?」

ぺろり。

は……?
綱吉は驚きに目を見開いた。
舐められた。くち。今…?
正確には唇の端であるが、頭が真っ白でそんなことまで気がまわらない。
男同士の先輩後輩がやるにしては、明らかにおかしい行為だった。
混乱した綱吉の様子を見て取って、雲雀がにたりと笑みを浮かべる。

「ぼく、人に自分が気に入ってるものをあげるのって大嫌いなんだよね。
ねえ、つなよし。なんできみにはあげたんだと思う…?」

「え、う…?」

「ツナあああああ!!!」

雲雀が目をまわす綱吉に覆いかぶさろうとした瞬間、突如林の中から飛び出してきたもじゃもじゃの物体が綱吉の後頭部に激突した。

「〜〜ッ!…痛いだろランボ!」

「へへーん!ツナが迷子になっちゃったから、ランボさんが見つけてやったんだもんね!」

「%♂§☆□∞△↓※…!!」

遅れてやってきたイーピンがぐいぐいとパーカーの裾を引っ張る。
どうやら自分が見つけたと言いたいらしい。

「迷子になったのはお前らだろ…!」

「そんなことよりツナ!ランボさんは次はわたあめが欲しいんだぞ!」

「もうお金使っちゃったのかよ!ちゃんと渡しといただろ…あーもー分かった分かった、買ってやるから…………って、それどころじゃなくて!」

ヒバリさんのことすっかり忘れてた……!
子供たちの喧騒にすっかり気を取られてしまっていた。
血の気を引かせつつ雲雀の様子を伺うが、もう遅い。

「………噛みころす。」

背後に暗雲を漂わせて、雲雀がゆらりと立ち上がっていた。
ジャキ、構えられたトンファーが木漏れ日を反射して鈍く光る。

「むっ、なんだおまえ!この赤レンジャーのお面はランボさんのなんだからおまえなんかにやらないぞっ!
ばーかばーかあっかんべー!」

「………。(ジャキジャキッ)」

「うわーうわーうわー!子供のすることですから!ちょっと待ってくださいよヒバリさ……」

「………(ぼんっ)」

「ってこっちもだー!」

師匠に似ている(らしい)雲雀に恋しているイーピンの時限爆弾がカウントをきっている。

「なんでこうなるんだよおお!」

綱吉は頭を抱えてうずくまった。



















お祭り行った時の日記に投下してた妄想SS。(爆
お祭りでも何でも妄想に繋げてハァハァできる自分に脱帽です(死
御影








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2007.09.07