未来編ヒバツナ妄想













「う…ぐ、っ!」

ドサアッ、と勢いをつけて現在のアレよりも華奢で貧弱なソレが、畳の上に倒れ伏す。
…ああ、貧弱なのは今も昔も変わらないか。
振り下ろしたトンファの構えもそのままに、雲雀は目の前に蹲るくすんだ茶色を見下ろしてそう一人ごちた。

「な…で、どうして……ヒバ、リさ…?」

よろよろと起き上がった小造りな顔の中、奔放に跳ねた髪と同じ茶の瞳が驚愕に大きく見開かれている。
びくびくとした、隠しきれない怯えを滲ませた視線。
自分に向けられるのはいつだってそれだけだ。奴には、あんな顔をして見せていたくせに。
いや、奴だけを一心不乱に見ていたのはアレの話で、コレは…十年前のアレはまだ、そうではなかったはずだ。だからコレには関係ない。解っている。けれど。
無性に腹が立った。
足元に身体を丸めているソレを無造作な動きで蹴り上げる。

「ッ…が……ぁ!……う…」

爪先がやわい肉に深く食い込む感触。暴力は振るい慣れている。内臓を傷つけるようなヘマはしない。

「ねえ、その目。気に入らないんだけど」

激痛を堪えて震える躯は、記憶にあるものより小さくか弱かった。
今のアレならこれぐらいは耐えられたはずだ。
けれど、アレだってあっさりと死んでしまったのだ。
あんなにも簡単に。
伸ばした手のひらをすり抜けて。
それならば、どうしてアレの何倍も脆いコレが生き残ることができる?
やはり自分の考えが正しいことを確信して、雲雀は満足気に頷いた。

「ひっ…!」

片膝を着いてしゃがみ込み、トンファを袖に戻して手を伸ばす。また殴られるとでも思ったのか、ソレは短い悲鳴をあげてじりじりと後退った。
やわい膚に指先が触れる。
確かな感触に僅かに安堵した。
怯える様子に構わず細い顎に手をかけて上向かせると、先程の言葉を受けてかおどおどと視線を逸らされる。
怯えた瞳は気に入らない。
が、自分を見ようとしないソレは更に気に喰わなかった。

「コッチ、見なよ。」

「…ぅ……」

「僕を見ろって言ってるんだけど?」

抑揚のない声で雲雀は淡々と繰り返した。
しかし、僅かに身体を震わせながらも目の前のソレは頑なに視線を合わそうとはしない。
容赦なく頬へもう一撃くれてやると、もはや恐怖に満ち満ちて薄い水の膜を張ったその双眸に、ようやくこちらを見返す己の姿が写った。
そこにあの頃からは幾分か変わってしまった、変わらざるを得なかった自身を認めて雲雀は自嘲するように僅かに口角を吊り上げる。

ああ、どうしてもっと早くこうしなかったのだろう。
力で捩伏せ、自分だけのモノにするのなんて、こんなに簡単な事だったのに。
そうすれば、あんな奴に奪われることもなかった。きっと永遠に失うことなどなかったのに。

今度こそ、間違えるつもりは無かった。

「………そう、それでいい。君はこれから、僕だけを見ていればいいんだから。」

水気を帯びて深みを増した茶色の中で、黒を纏った見慣れた男が満足気な、けれど何処か哀れみを含んだ歪んだ貌を浮かべて笑っている。

「っリボ……みんな、たすけ‥!」

「いくら叫んだって無駄。
ここは僕の独立拠点だから、僕の許しが無ければ誰も立ち入れはしない。」

恐怖を煽られたのか、無意識のうちにだろうこの期に及んで助けを求めて獲物がか細い悲鳴をあげた。
他の者を呼ぶ声など耳障りでしかない。
せっかくの上機嫌に水を差され整った眉を鬱陶しげに寄せながら、雲雀はうわ言のように他の名前を繰り返す煩い唇を自らのそれで塞いだ。

「・・・・・・!!!」

衝撃を受けたのかそれまで大人しかった華奢な身体がビクリと強張り、しばらく自失していたかと思うと次いでこれまでにない激しさで暴れ始める。
けれど十年前のソレの、未成熟な子供の身体の抵抗を封じることなど、雲雀にとっては造作もなかった。
口付けたまま細い身体を畳の上へ倒し、両手を頭上で一纏めにして両膝で腿を押さえつければ邪魔な手足も難なく封じられる。
案の定、ろくに身動きもとれないその状態で抵抗を続けられるわけもなく、ほどなくソレは雲雀の腕の中にぐったりと力を抜いた肢体を投げ出した。
口腔内に進入しようと舌で歯列を辿るが、抵抗は諦めたようであるもののきつく食いしばられたその歯列は緩みそうにない。
小動物の最後の意地か。
雲雀は切れ長の黒瞳をゆうるりと細めた。頤を支えていた手を獲物の顎全体を掴むように滑らせる。
過去も未来も、僕を拒むの。こんなに弱い小動物のくせに。ねえ、綱吉?
細い顎の付け根あたりにある窪みを探り当て、指先に力を込めれば、きつく食いしばられた歯列はいとも簡単に開かれた。
招き入れるように開いたそこからぬるりと舌を進入させれば、大きな瞳が虚を衝かれたように雲雀だけを映して見張られる。
ただ自分だけを映す瞳。
ようやく望んでいたソレを向けられて、先ほど僅かに下降していた機嫌が上昇する。
暖かい口腔の奥で縮こまった舌を引きずり出し強引に絡め取ってやると、合わさった唇の間からくちゅくちゅと濡れたいやらしい音が間断なく零れた。
ちいさな舌。自分の肉厚のそれとは違う。体温が高いからか、熱く感じる。
きっとまだ、誰とも唇を合わせたことなどないはずだ。女さえも知らない、まったくの手付かずの、まっさらなソレ。
舌や歯列を辿り口腔内を執拗に探りながら、雲雀は駆け抜ける愉悦を味わった。
決死の抵抗と噛み締めた歯列も強制的に抉じ開けられた絶望からか、これ以上の抵抗は無意味と悟った脱力からか、それともその両方か。獲物が力なくその双眸を閉じる。
慣れていないのか、うまく呼吸できない様子を見て取ってようやく雲雀が長かったくちづけを解くと、二人の濡れた唇の間を唾液の糸がとろりと繋いだ。
ぜえぜえと薄い胸を喘がせながら、ぼんやりと雲雀を見上げて綱吉は呻いた。

「なん…で、こんな………ヒバリさ…俺、は・・…ヒバ…さ、を」

「黙りなよ。きみの言うことなんて、聞きたくない」

「ぅ・…、ン」

その先を聞きたくなくて、雲雀は再び薄く開かれていた唇を塞いだ。
どうせ望んだ言葉でないことは分かりきっている。
以前も聞かされたソレをもう一度聞く気は無い。
ああ、でも、
ふと疑問が頭をよぎり、雲雀は動きを止めた。

選んだ結末は、これで本当に良かったのだろうか?

けれど、長年欲し続けてようやく手に入れた充足の前では、そんな些末は浮かんだ傍らから泡のように儚く消えた。



















未来編で雲雀さん出てきて基地行ったあたりからの分岐的な。
ジャンプ読みながらこーなったらいいな〜ハァハァ(危)とかって妄想してた気がします。(やめれ!)
でも十年後雲雀様はこんなダメダメ妄想のようにはいかずに(当たり前)実に颯爽とご活躍あそばされたので妄想も短めに・・・しかも久々アップがこんな暗いのでごめんなさいいい!

御影








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2008.01.19