三月十四日、夕方











三月十四日。

「いってきまーす!」

ツナは軽やかな足取りで自宅を後にした。
今日は楽しみにしていた漫画の単行本の発刊日である。
それに…クッキー、京子ちゃんすごく喜んでくれてよかったなあ。
京子からバレンタインにチョコを貰っていたツナは(もちろん了平や他の皆に渡しているものと同じものだろうが、手作りのそれを貰えただけでツナは天にも昇る心地だった)、昨日母と一緒に一生懸命お返しのクッキーを焼いたのだ。
それは生来の不器用さが出てしまって、端の焼け焦げた形もいびつで不格好なものだったけれど、京子は『わあ、ありがとうツナ君!おいしく食べさせてもらうね』と、とても喜んで受け取ってくれた。
ツナも可愛い女の子に淡い恋心を抱く、健全な一少年である。
今日学校でそれを渡したときの京子の笑顔を思い出すと、知らぬ間についつい顔が緩んでしまって少し恥ずかしかった。
普段なら学校から帰ったら疲れたと言ってごろごろしたいところだが、うれしいことがあったためだろうか、何だかじっとしていることができなくてこうして外に飛び出してしまった。
が、うきうきとスキップでも始めそうだったツナの足は次の瞬間、地面に凍りつくこととなった。

「むっ…むくろ……」

「クッフフー!僕をこんなに待たせるなんて、本当に仕方のない人ですね綱吉くんは!」

電柱の影から出てきた妙なパイナップル頭の美形が、頬を染めながら目の前でクフクフと含み笑いしている。
あ…なんかデジャブが……。
一ヶ月前の横暴風紀委員長の突然の来襲を思い出して、ツナは目を遠くした。
委員長様にはもちろん本日、手作りのクッキーを献上させて頂いている。

「……で、いつからいたの?」

「朝からクロームに君の周りを張らせていました。
でも中々君が一人になってくれませんでしたから、接触するのに大変でしたよ!」

「うおい!」

それって大変だったの髑髏の方じゃんか!
こんな主に振り回される髑髏がかわいそうである。
ツナもやっぱり男の子だったから、可愛い女の子には弱い。

「あのなぁ…」

「??…はい?」

女の子なんだから、少しは気遣ってやれと言いかけた言葉は、しかし最後まで紡がれることはなかった。
そういえば…骸、今何処かに捕まってるんだよな……つめたくて暗い場所で、一人で……。
きょとりと不思議そうに首を傾げる骸を見上げながら(普通、図体のデカい男がこれをやるといろいろとキツいが、骸はそう見えない。美形はそれだけで得である)、ツナは眉をしかめる。
骸の本体のことを思えば、注意などできそうになかった。
そこがツナが骸や某右腕など(両方ともストーカー紛いの行為がヤバイ人である。普通の人間なら既に切れている)になんだかんだ言ってつけこまれてしまう所以なのであるが。
とりあえず他の話題を振ることにして、ツナは骸に問いを向けた。

「とにかく、俺に何の用事なんだよっ?」

「ああ、お返しを頂こうかと思いまして」

「…………は?」

「だから、お返しですよ。バレンタインデーの」

「はあっ!?」

予想外の骸の答にツナは目を丸くする。
そんな…だって俺、骸にチョコなんて貰ったっけ??
えっと、京子ちゃんに、ハルに、例の風紀委員長様に、獄寺くんに、山本に、ディーノさんに……何故かチョコをくれた男性メンバーまで頭の中で数えあげてみるが、やはり骸にチョコを貰った記憶は見当たらなかった。

「なあ、俺やっぱり骸にチョコ貰ってないと思うんだけど…」

「失礼なことを言わないでください、そんなはずありませんよ!
ちゃんと夜、君が寝た後に僕自ら口にチョコレートをねじり込んで差し上げました!」

「ウワアアアアア!」

怖いよ!
普通に怖いよ!
何勝手に人の家に不法侵入してんだよ!
ツナは悲鳴をあげてのけ反った。
そういえば、二月十五日の朝起きると口の回りがチョコレートでベタベタになっていた…不思議に思ってはいたものの、どうせリボーンか他の子供たちのいたずらだろうと思ってさして気に止めていなかったのだが……。
お前だったのかよーっ!
驚愕の真実に口をぱくぱくとさせているツナにお構いなしに、骸が顔をしかめて薄い唇を開いた。

「ああそうだ、綱吉くん窓はちゃんと閉めないと。
無用心ですよ!いつ誰が入って来るか分かりませんからね、あの自称右腕とか鳥男とか」

「お前が言うなァー!」

そもそも二階の窓から入ってくるなんて骸くらいしか……いや、風紀委員長様もあそこからいらっしゃったことがあるっけ…獄寺くんもいつ来てもおかしくないし……って今はそんなことじゃなくて!
ツナは呆れた目で骸を見つめた。

「そんな寝てる間にチョコ食べさせられたとかしんないよ…骸の分のお返しなんて用意してないんだけど」

「そんな…!僕だって綱吉くんにチョコレートを差し上げたことには変わりないんですから、お返しを頂く権利はあると思いませんか?」

「…え…うん?」

「食べたのは確かでしょう?」

「いやまあ…食べたっていうか食べさせられたっていうか……」

「じゃあ受け取ったということになりますよね!」

「うーん…そうなるのかなあ…」

ツナは押しに弱かった。
美形にも弱かった。(たとえそれが中身がアレな人でも、美形なだけで妙な迫力に負けてしまう)
加えて、それまでのダメライフで培ってきた流され易さもピカイチであった。
ので、骸に畳み掛けるように強く言われているうちに、だんだん何だかお返しを用意していない自分の方が悪者のような気がしてきてしまう。
そうだよなあ…骸だって今大変なんだし、ちょっとぐらいはこうゆう行事楽しみたいだろうし……ああ、そもそも研究所とかにいたから行事を楽しんだことなんてないのかも……。
考えれば考えるほど自分が悪い気がして、ツナは骸に対する罪悪感でいっぱいになった。
実際冷静に見れば、過去のことを差し引いても骸のやってることはなかなかなのだが。

「ごめん…でも、俺本当に今渡せるもの何もなくて…クッキー全部配っちゃったからなあ」

作った分のクッキーは学校で全部配ってしまったし(ハルは登校途中で渡した)、ディーノの分はあるけれど、明日来日する予定だから置いておかなくてはならない。
余ったのは全て子供たちがきれいに平らげてしまった。
懐にはなけなしの千円札二枚が……ごくりと唾を呑み込むと、ツナは覚悟を決めた。

「ほんとごめん!あの、俺、あんまりお金持ってないんだけど…安いものでいいなら、何か骸の欲しいものプレゼントするよ?」

「クフフ…本当に可愛いですねえ、綱吉くんは。
お返しを用意してないことぐらい、始めから分かってますよ。
安心してください、心配しなくても君に金銭的なものを要求しようなんて思ってません」

本当に申し訳なさそうなツナの姿を見下ろして、骸が色違いの双眸を甘く緩ませる。
六の文字が刻まれた紅い瞳が、妖しい光を宿してチカリと煌めいた。

「それに…僕が本当に欲しいものは、お金では買えませんから」

「え…?」

端正に整った容貌がだんだんと近づいてきていて、ツナは驚きに茶色い瞳を大きく見開く。
呆然と見上げているうちに、長い睫毛の一本一本まで数えられるほどに骸の顔がアップになり、ついには鼻先が触れ合うほど距離が縮められた瞬間―――――。

「チッ!」


ぼふんっ


「わぷっ!?」

悔しそうな舌打ちが聞こえたと同時、骸の長身が白い霧に包まれて、もろにその煽りをくらったツナは思わずげほげほと咳込んだ。

「ボス…?」

涙目になって顔を上げれば、あの妙なパイナップル頭を骸と揃いにした美少女が、小首を傾げてこちらを見つめている。
黒曜中の女子制服を纏った、スカート丈の短いその姿にはよく見覚えがあった。

「…髑髏?」

「ボス、大丈夫?」

「うん…ありがとう」

予期せぬ髑髏の登場に、先程までの事態が頭から飛んでしまう。
しかし続く髑髏の言葉に、ツナの思考はすぐにそこに引き戻された。

「あんまり、怒らないであげて。骸さま、ボスのこと大好きだから」

そういえば…もしかして俺、骸に、き、キスされそうになったのかっ!?
いや、男同士だしやっぱりそれはないだろー……でも骸って、俺に嫌がらせするためなら手段を選ばないとこがあるからなあ…。
ウンウン唸るツナにお構いなしに、髑髏はつかつかとツナに歩み寄った。(こうゆうところはよく似た主従である)

「あのね、ボス」

「う、うん…?」

ち、近い!顔の距離近いってば…!
骸に続いて近すぎる距離に、ツナは内心で叫んだ。
けれど違うのは、思わず頬が赤くなってしまうところだろうか。
やっぱり美形でも男よりは、可愛い女の子のほうがいい。

「わたしも、ボスのこと、大好き。
チョコレート、わたしも骸さまを手伝って作ったの。だから」


ちゅっ


「ッ…!?」

な、いまのなに…ッ!?
いつぞやのように、やわらかい感触が軽く頬に落とされて、ツナの頭は完全にフリーズした。

「お返し、もらってもいいよね…?」

「んなあっ?!」

「……骸さま、ちょっとうるさい…」

頭の中で骸が猛抗議しているのか、髑髏がこめかみを押さえてその細い眉を微かにしかめる。
けれど短いスカートの裾をくるりと翻して、髑髏は踵を反した。
こちらに振り返って、少しだけはにかんでみせる。

「ありがと、ボス。それじゃあわたし、帰るから。
今日はずっとボスを見張ってて、ちょっと疲れた」

それだけを言い残すと、華奢な後ろ姿はタッと軽やかに走り去っていった。
ツナが我に返って呼びかけた時にはもう遅い。
影はずっと遠くなり、やがて夕暮れの町並みに溶けた。

「あいつら…なんなんだよ、もう…!」

いつか、知らないうちにあれよあれよと流されていってしまいそうな自分が怖い。
ツナは沢田家の門扉の前に座り込むと、二人…いや、二人で一人な強敵のことを思いやって頭を抱えた。



















なんか骸さまがとんでもない変態風味でごめんなさいごめんなさい(爆
てゆうかホワイトデー話のはずがきっちり日付変更線越えちゃってごめんなさいごめんなさい(死
しかも本誌で髑髏ちゃんが登場するたびに、スカートの中を覗こうと必死にコマを眺め回してる不審人物は私です…ウン、完璧変質者だね!(泣
アレだ…最近骸+髑髏×ツナな三つ巴に萌えます…てゆうか髑髏ツナいいですよね!
え?違いますよツナ×髑髏じゃありませんよもちろん髑髏ちゃん攻めですよ!(うおい!
まさか骸ツナ雲雀の暗黒三つ巴書く前に骸ツナ髑髏を書くことになるとわ…やっぱりおんにゃのこは可愛いですオッサン大好きですハァハァ(危険
次回はちゃんと暗黒三つ巴かダーク骸ツナを書きたい…な!(希望かよ!

御影








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2007.03.15