※『獣の家』を少しいじってむくつなバージョンにしてみました。地の文はそのままですので、同じのは読みたくないなあというお方はご注意くださいっ;
 本当にセリフや表現をいじった程度であとはそのままですので…;
※骸さんがバイオレンスです。綱吉に執着しまくりです。
 ていうかなんかもうオリキャラレベルに別人です…。
※エロ突入です…ご注意ください。











獣の家(むくつな義兄弟ver):02











「……むーん。どれにしようかなあ」

もう十分はこうして唸っている。
現在の住まいである、ぼろっちい安アパートの最寄り駅から徒歩5分。
丁度帰り道に位置するコンビニには、今のところ客は綱吉一人しかいない。
店員の迷惑そうな視線を感じながらも綱吉がデザートコーナーに立ち尽くしているのは、21歳の誕生日を孤独に祝うためのケーキを吟味しているからである。寂しい。
しかし、所詮コンビニと侮ることなかれ。
今時はよりおいしいものを食べたい!というニーズに対応してか、コンビニに並ぶデザート類はかなり種類も豊富で、手の込んだものとなっている。
普段は手の出せない代物だが(なんせいっぱし社会人である。恥ずかしい。)、今日は誕生日だ。これぐらいは許されるだろう。
おまけに店員の他には誰もいない…チャンスを見てとって、綱吉のケーキを選ぶ目つきに力が入った。
うーん、レアチーズケーキのブルーベリーソース添えもいいけど……でもここは、やっぱオーソドックスに苺のショートにすべきか……悩むなあ……。
生来の優柔不断癖が遺憾なく発揮されている。
しかし、間もなくきゃぴきゃぴと声を弾ませた女子高生達が入店してきてしまい、綱吉は素早い決断を余儀なくされてしまった。
うろうろと未練がましく視線をさ迷わせた末、結局苺のショートケーキをカゴに入れる。
母の奈々が健在だった頃からのお決まりの組み合わせであるポテチとコーラも一緒に放り込んで、綱吉はそそくさとレジに向かった。
結局コレなのかよ、と言いたげな店員の視線にも素知らぬふりでぼーっとしていると、ボリュームの大きい女子高生達の声が聞くともなしに耳に入ってくる。
その会話に何かひっかかるものを感じて、綱吉は軽く首をひねった。

「ねえ!さっきの人見た!?めちゃくちゃカッコよかったよねー!」

「うんうん、私も思った〜!オッドアイってちょーめずらしくない!?なんていうか…ちょっと妖しくて近寄りがたいカンジだけど、そこがまた危険なカンジでいいよねー!
うちのガッコのチャラい男子たちにも見せてやりたいよ」

「ん〜……っていうか、あんた達マジであのヒトのこと知んないの?メッチャ有名だよ?
うちらとは世界が違うっていうか…なんであんなトコにいたのか分かんないくらい。いい?あのヒトはねぇ……」

「…1129円になります」

「ッ……うへひゃあっ!」

すっかり話に聴き入っていたところを冷静な店員の声で引き戻され、綱吉は素っ頓狂な声をあげて跳び上がった。
店員は怪訝そうに見ているし、女子高生達もおしゃべりを中断して目を丸くしている。

「…せんひゃくにじゅうきゅうえん……えっと1129円ですよね、ハイ…」

顔を真っ赤にしつつ千円札と百円玉二枚をレジに置くと、綱吉は自分のひらべったい鞄を脇に挟み、ケーキとポテチの袋(一応ケーキとそれ以外は袋を分けてくれたらしい)を引っつかむなり釣りも受け取らずに一目散にコンビニを後にした。
うおおお恥ずかしいー!盗み聞きしてたと思われちゃったかなあ…もうあそこには行けないや。バイトが変わるまでは。ウン。
…とか言いつつまた行くんだろうけど。だって近いしなあ。
久々の全力疾走にぜえはあ息を切らせていると、どーでもいいようなくだらない思考がぐるぐると頭をまわって、更に何がなんだか分からなくなる。
とりあえず荒い呼吸を収め、深呼吸を三回ばかりして、ようやく綱吉は帰途を辿り始めた。
少し都心から離れているせいか、まだ十時をまわったところだというのに道を歩くものは他にいない。
切れかけの電灯がちかちかと瞬くのを不気味だなあと思いながら、綱吉はいつもの角を左に曲がった。
これを曲がればアパートはすぐそこ、二階の右奥である綱吉の部屋さえ直視できる。

…………………あれ?

しかし部屋のドアの前にもたれ掛かる黒い人影を認めて、綱吉は思わず駆け出していた。
もしかしたら、彼女が戻ってきてくれたのかも…!
さっきから目茶苦茶に振り回しすぎて、せっかく選んだケーキがどうなっているのか考えるだに恐ろしいが、そんなことはどうでもよかった。
我知らず期待に胸がドキドキと高鳴る。


けれども、綱吉の甘い期待は、最悪の形で裏切られることとなった。


「………やあ、久しぶりですね。兄さん?」

綱吉に畏怖と、恐怖と、そして絶望とを無理矢理刷り込ませた異母弟が、妖しく煌めく切れ長のオッドアイをあまく眇めて、そこにいた。
もう高校生になるのだろうか、都内の有名私立の制服を隙無く着込んだ長身は、子供の頃の甘さを一切削ぎ落とし、よりシャープに、より男らしくなった怜悧な美貌で綱吉をじっと注視している。
しかし、その実彼は何一つ変わってなどいなかった。
外見上は著しく成長しているが、その中身はあのころのままなのだとすぐに悟って、綱吉は絶望に身を震わせる。
だって、綱吉の全身をねっとりと這い回る色違いの視線は、三年を隔てた今でも何ら変わらない熱と執着をはらんでいるのだから。
唯一の絶対者に全てを支配された日々が甦り、老人のようにかさかさにひび割れた声が綱吉の唇を割った。

「な……んで、………こ…こに……」

「…何でって、せっかく可愛い弟が会いに来たっていうのにそれはないんじゃないんですか?
それにしても、今日は随分遅かったですね。
全く、この僕を外で二時間も待たせるなんて、兄さんぐらいなものですよ」

もうあの忌まわしい過去からは解放されたんじゃなかったのか?
ただ呆然と、吊り上がった薄い唇を見ることしかできない。
そんな綱吉を見て、骸は馬鹿にしたように、ハッと鼻で笑いとばした。

「ねえ、まさかとは思いますけど、本気で僕から逃げられるとでも思っていたんですか?
全部知っていましたよ。どこに住んでるのかも、どこに就職したのかも、朝は何時に出ていつ帰るのかも。どの携帯電話の機種を使ってるのか、好んで買う惣菜は何か、よく見るテレビ番組まで。全部、ぜんぶ。
もちろんすぐに連れ戻すことだってできました。でもね…」

全てを監視されていたことを知って、綱吉の足ががくがくと震え出す。
そこで言葉を切って、骸はうっとりと瞳を細めた。

「兄さんもそろそろ限界が近かったみたいですからね…少しの間、猶予をあげることにしたんですよ。壊れちゃうとつまらないですから。
それになにより……そう、その顔が見たかったんんです、ぼくは。
馬鹿みたいに自由を信じ切って、最後に結局自分は掌の上で踊っていただけなんだと思い知らされたときの、絶望で満たされた顔。
恐怖と、怯えと、悲しみと……そして、どうしようもない怒りがない混ぜになったその眼。
いいこと、教えてあげましょうか?
その眼を向けられるとね、昔から僕はたまらなく興奮するんです。
めちゃくちゃに引き裂いて泣きじゃくらせてあげたくなる。
誰が支配者なのか脳髄まで刻み付けて、完璧に叩きのめして、僕の前に這いつくばらせたくなる。ひざまづいて赦しを乞わせたくなる。
…怒ってるんですか、にいさん?
取るに足らない小物のくせに。」

「ど……して…なんで、俺なんかにそこまで構うンだよ……ッ」

悲鳴のような声をあげて、綱吉は骸を睨み据えた。
その必死な問い掛けに、骸は自問するように小首を傾げてみせる。

「さあ…何でなんでしょうね。
馬鹿で、弱くて、卑屈で、こんなに小さくてつまらなくてくだらない、その他大勢の中の一人。
何でこんなに執着しているのか、自分でも不思議ですよ。
逆らう気概なんてないくせに、生意気に僕に憎しみをぶつけてくるところが気に入っているのかな。
それとも初対面のときただ一人、僕の前で立ち上がったから?
分からないし、そんなことはどうでもいい。
ただ一つ言えるのは、今すぐあなたを捩伏せて征服してやりたいってことだけです」

そう言ってニタリと唇の端を吊り上げると、骸は綱吉に一歩近づいた。
ケーキの入ったコンビニ袋をさっと取り上げると、中を覗きこんで興味がなさそうにふーんと呟く。

「……アッ…………!」

「さっきから何を大事そうに持ってるのかと思ったら…こんなもの、いらないですよね?
兄さんには僕が与えるものだけでいい。ね、そうでしょう…?」

「やめ………」

黒光りする革靴でぐしゃりとケーキが踏み潰されるのを、綱吉はどうすることもできずに見守ることしかできなかった。
腕を強く引かれ、おそらく最初から鍵が開けられていたのだろう、アパートの安っぽい扉の中へと無理矢理押し込められたからだ。
ポテチとコーラが入ったビニール袋とセールで買った薄っぺらい鞄が、ごとりと鈍い音を立てて玄関のコンクリートに散らばった。

「誕生日なら、僕が祝ってあげます。
兄さんのために、ケーキも特注してたんですよ。ホラ、あそこのケーキ、好きだったでしょう?」

パチリと電気が点けられる。
蛍光灯の眩しい明かりに、綱吉はぱちぱちと目をしばたかせた。
骸の言う通り、屋敷にいたころ綱吉が好んで食べていた三ツ星ホテルのロゴ入りの紙袋が部屋の中央に鎮座していたが―――それよりも綱吉は、煌々と照らし出された部屋の惨状にヒッと息を呑んだ。

「な…んだよ、コレ………なんなんだよ…っ!
俺の荷物はどうしたんだよ‥!」

部屋の中はがらんどうだった。
からっぽ。ケーキの紙袋以外は何も見当たらない。
そのせいで、狭い部屋が余計寒々として見えた。
あまりの事態に、狼狽した綱吉は怒りのままに骸に食ってかかる。
それを見て、骸は不思議そうに首を傾げてみせた。

「だって、僕、が兄さんを迎えに来たんですから。
屋敷に帰るのに、引越し作業をするのは当たり前でしょう…?
安心してください、昼のうちに全部済ませておきましたから。あとは鍵を返すだけです」

「……勝手に、こんな………もう、いいです。父さんに全部話します。
今までのことも、今日のことも。もう我慢できない、何とかしてもらうから………」

「父さんに…?……プハッ、クフフ……くははははっ」

綱吉にとっても苦渋の決断である。
しかし最終手段を持ち出したというのに、たまらない、といったように笑い出されて綱吉は顔を引き攣らせた。



















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2007.03.27