悪魔の捧ぐ信仰



※序盤から骸さんが人を殺してます。
そんなに描写はないと思いますが、スプラッタを連想する言葉はかするのもダメ!という方は一応ご注意くださいー!










ビチャリ、
踏み出した瞬間鼓膜を打った水音に、男は足元を見下ろして溜め息を吐いた。

「あーあ。随分靴が汚れちゃいましたね。」

血でべったりと汚れている得物の槍をひゅ、と一振りして、もう一歩踏み出す。
ゴロゴロ死体の転がる広い部屋の片隅で、今回の獲物が醜く太った身体をぶるぶると震わせていた。

「さて、あとはアナタだけみたいですね。」

「ヒッ…!ち、近寄るな!」

「…愚かなことだ。
それ程死が恐ろしいのなら、ボンゴレに歯向かわなければよかったのに。
そうすれば、少なくとも一族郎党皆殺しなんて悲惨な結末にはならなかったでしょうに、ねえ?」

ボンゴレに、彼に、仇なすなんて、本当に愚かなことだ。
そんなことは、自分が絶対に許さない。

男はいつものように胸中で呟いたが、しかしそれは大きな悲鳴に遮られた。
男が前方に視線をやると、よく肥えた中年の男がその脂ぎった顔を蒼白にして男を凝視していた。

「皆殺しだと…!?貴様、まさか妻と息子まで……!」

男は何も答えず、僅かに口角を上げてみせた。
それだけで全てを悟ったのか、怯えて青白くなっていたはずの獲物の顔が、憤怒で赤く染まる。
当然だ。下手に身内を生かしておけば、いつ彼に復讐しようと危害を加えるか分からない。
女子供でも例外はない。
復讐に生きる人間は、しぶとく厄介なものだ。己のように。

「貴方みたいな下衆でも、身内を思うことができるんですね。驚きました。」

おどけたように言って、わざとらしく眼を見開いてみせる男に、獲物は怒りも露わに罵りの言葉を吐き捨てた。

「悪魔め…!」

「よく言われます。」

悪魔と呼ばれた男は、六の数字の刻まれた右の赤眼を禍々しく光らせて、にっこりと穏やかな笑みを浮かべた。
黒々と広がる血の海と、無造作に打ち捨てられた屍肉をグチャグチャと踏みつけながら、悠然と歩みを進める。
長い影がへたりこんだ獲物の上に落ち、最期を悟った獲物は、憎しみに満ちた、老人のようにしわがれた声で男へ呪詛を吐きかけた。

「呪われろ!」

ビッ、と槍が空を斬る。
叫び終るか終わらないかのうちに、獲物の額には深々と三叉の槍が突き刺さっていた。
男は、怨嗟を込めて叫んでいるまま息絶えた獲物の顔を平然と踏みつけて、槍にかけた手を引いた。
ぐちぐちと、砕けた頭蓋と飛び出る脳髄をかきまわしながら槍を引き抜く。
男は物言わぬ骸を見下ろして、さもおかしそうに色違いの双眸を細めた。

「クフ、残念ながら、僕はもうとっくの昔に呪われているんですよ。」

わらいながら、ずるりと抜けた槍を死んだ男のシャツで拭っていると、後ろから鈴を鳴らすような少女の声が男の名を呼んだ。

「骸さま。終わった?」

「ええ、思ったよりもあっけなかったですよ。
そちらの首尾はどうでした?」

「言われた通り、全員、殺した。何人か逃げたけど、犬と千種が追い掛けたから、大丈夫。」

「そうですか」

男――六道骸は、己の分身とも言える少女へ満足そうに微笑んだ。
不似合いな三叉の槍を握り、骸と揃いの後頭部に房を作る髪型をした少女がことりと頷く。
その時、ピリリリ、と血生臭い空間に場違いな軽快な音が静寂を割って鳴り響いた。
胸ポケットの携帯に手を伸ばし、通話ボタンを押す。
内容は予想通り、長年の付き合いである無口な部下の簡潔な報告だった。
通話を切った骸は、じっと待っていた少女を振り返った。

「千種達はそのままアジトへ帰るそうです。クロームも先に帰っていいですよ。
僕は本部に報告してから帰ります。」

「はい、骸さま。」

少女の後姿を見送って、骸も惨劇の繰り広げられた部屋を後にした。
今日は確か、彼も同盟ファミリーとの会合で本部にはいないはずだ。ならば着替える必要はないだろう。
いつもなら、鈍いくせに妙に聡いところのある彼にすぐに気付かれてしまうから、シャワーを浴びて着替えなければならない。
でなければ、甘い彼はまた自分が危険な任務を負わされているんじゃないかと、心配そうに顔を曇らせるから。
その時の眉根を寄せた情けない顔の彼を思い出して、クフ、と知らず唇が緩んだ。
いつもの仮面ではない、自然な微笑みを浮かべている己に気づき、苦笑する。
全く、悪魔とまで呼ばれる自分が、随分甘くなってしまったことだ。
これでは甘い甘いと彼のことを責められない。

「さて…僕も早く報告を済ませて帰りますか。なんだか今日は、疲れましたね。」

ぽつりと一人ごちて、裏に待たせてあったボンゴレの使いの車に乗り込む。

『呪われろ!』

標的であった男の、最後の呪詛が脳裏に響いた。
赤い邪眼がじくじくと疼く。
骸は広いシートにゆったりと背を預けて、疼く右目を抑えた。
何千何万という人間を殺してきた。いちいち殺した数など覚えてはいない。
その誰もが骸を恨み、憎み、憎悪の表情で睨みながらありったけの罵声と呪いを叫んで死んでいった。
呪詛と憎悪を受けるほど、この忌まわしい眼は力を増し、骸を苛む。

恨め、憎め、呪え、お前を虐げてきた世界を滅ぼせ!殺せ殺せ殺せ!

骸の世界に対する憎悪は強い。それまでに骸に吐きかけられてきた憎悪の全てよりも。
けれど。骸は目を閉じ、ゆっくりと息を吐いた。
彼がいるから。
こんな腐った世界でも、彼は愛しているから、守りたがっているから。
だから、自分は世界を呪わずにいられる。滅ぼさずにいられる。彼のために。
彼のためなら、なんだってできる。僕は。
この呪われた身を厭わず、あまつさえ心配までする甘ったるい彼のことを思い浮かべると、骸を苦しめていた右目の痛みが消えた。
あっさり静まってしまった憎悪の衝動に、骸は愚かしいほど正直な反応をする自分を笑い飛ばしたくなる。
実際、堪え切れない笑いが噛みしめた唇から漏れ、次第に高らかな哄笑へと変わった。

「クフ…くは、クハハハハ!クフフ」

突然笑い出した骸に驚いたのだろう、ぎょっとした顔の助手席の黒服が、振り返って骸を見ている。

「ど、どうかしましたか?」

骸は笑い続けながら、おそるおそる何事かと訪ねてくる若い男の顔を見た。
霧の守護者は気まぐれで残忍な事で有名だ。ボンゴレ内部でも関わらない方が良いと恐れられている。
それとも、ついに気が違ったとでも思ったのだろうか。
骸は更に腹を抱えて笑い出したくなった。
そうとも!僕はとっくに狂っている!彼に狂わされたのだ!

「クフフフ、何でもありませんよ…ただ、笑いたくなっただけです。」

「はあ…。」

まだ心配そうにこちらを見ている男に、笑いすぎて痛み始めた腹筋を摩りながら骸は上機嫌に続けて言った。

「僕は今、機嫌がいいんです。だから心配しなくても、殺したりはしませんよ。」

その言葉にビクリと肩を大きく揺らして、おどおどと頷きを返した男は急いで前に向きなおした。
骸がボンゴレの人間でも、気を損なえば容赦なく殺す事は知れ渡っている。
まあそれは、骸の前で彼を侮ったり、貶めるような態度や言動を取った者たちだから、骸にとっては自業自得以外の何物でもないのだが。
それきり頑なに後ろを振り返らない黒服達のおかげで、気の済むまで笑い続けることができた骸は、本部につくまでに何とか笑いを治めることができた。
本部として機能している、広大なボンゴレの屋敷の警備の者たちが、骸の姿を見ると全身に緊張を走らせる。
血だらけの骸の姿に、また誰かを殺してきたのだと恐れを込めてひそひそと囁かれているのが、聞こえなくても分かった。
好奇と畏怖の視線には慣れている。
あちこちで身体に絡みつくそれに頓着することなく、骸は屋敷の中心部、ボンゴレ10代目の執務室へと足を踏み入れた。

「…骸か。」

足音もなく、突然開かれた扉に驚くことなく、幼いが落ち着いた声が骸の名を呼んだ。
分かりきっていることだが、彼ではないことに少し落胆している自分に、骸は自嘲する。
当たり前だ。彼が今日居ないことを知っているから、自分はそのまま此処に来たはずなのに。

「ええ、お久しぶりですね、アルコバレーノ。君に与えられた任務の報告に来ましたよ。」

久し振りに対峙した彼の教育係であるアルコバレーノは、相変わらず感情の読めない無表情で骸の報告を受けた。
赤ん坊から少年といえる外見になった今も、トレードマークである黒いスーツと山高帽は変わらない。

「終わったのか。」

「ええ、全て。持ち出していたボンゴレの施設の資料も、敵に渡る前に回収しました。」

今回、骸に暗殺の任務が下された標的は、何代にも渡ってボンゴレの幹部を務めていた一族の現当主だった。
彼が新しくボンゴレ10代目に就任した時から、彼のことを快く思っていなかった男は、彼の失脚を目論んだらしい。
日頃から彼の采配に難癖をつけ、ボンゴレ内部の彼に対する不信を煽っていたが、それにも飽き足らず、あろうことか敵対ファミリーの甘言に乗ってボンゴレの情報を流していた。
情報の流出を彼の力不足だと非難までしていたのだから、恐れ入る。
若く、異国の人間である彼は10代目にふさわしくないと男に同調する者も少なくなく、そのせいで今まではなかなか男に手を出すことができなかったのだが。
それまでに流出したさほど大した損失のない情報とは違い、今回男が持ち出したボンゴレの有する施設の所在や内部構造の資料は、到底見逃せるものではない重要なものであり、ようやく渋る古参を抑えて骸に暗殺の命が下ったのだ。
骸の報告を静かに聞いていた少年は、報告を終え口を閉じた骸に淡々と尋ねた。

「それで、また殺したそうだな。」

「…当然でしょう?殺せと命じたのは君だったはずですが。」

「とぼけるな。オレが言ったのはヤツ一人のことだけだぞ。
お前、また部下も家族も一人残らず殺したそうだな。」

「なんだ。バレてたんですか。」

クフフ、と笑う骸を強い視線で射抜いて、少年は続けた。

「当たり前だ。後始末は誰がすると思ってんだ、ちょっとは控えろ。」

「彼らはボンゴレを裏切った。当然の結果でしょう。」

「側近ならともかく、下の奴らや家族は何も知らなかっただろう。
ヤツだけならともかく、長年仕えてきた一族を皆殺しにしたとなっちゃあ、ジジイどもが黙っちゃいない。
あいつらの相手をするのはオレなんだぞ。」

らしくなく、ふうと溜息を吐いた少年に、骸は猫のように赤と青の双眸を細めた。

「だから、ですよ。何も知らなければ自分たちの怒りは正当なものだと、残された者たちは復讐を誓うでしょう。
そしてその矛先は彼に向う。」

「フン、随分過保護なことだな。」

骸の台詞に、少年が揶揄するように唇を吊り上げる。
骸も彼の執務机に足を組んで腰かけている少年を見て、嘲るようにゆうるりと唇を吊り上げた。

「彼に何も知らせず、彼に仇なす者を僕に殺させる君も、十分過保護ですよ。」

それだけ言って、踵を返す。
引き留める言葉は追って来なかった。
自分も早く寝床に戻らねば。シャワーを浴びて汚れを落とし、ゆっくりと羽を伸ばしたい。
そう考えながら足を速めて屋敷の入り口に向かう。
しかし骸の歩みは、慌ただしい様相を見せる前方を注視して止まった。

「そんな…今日は会合で帰らないはず…。」

けれど、現実に黒塗りのベンツから降りて黒服に囲まれながらこちらへとやってくる小柄な姿はこの両目にしっかりと見えてしまっている。
慌てて幻術で血みどろの服を真新しいスーツへと変え、骸は自分を見つけてこちらへ走り寄ってくる主をおとなしく待った。

「骸…!来てたんだ!」

「ええ…綱吉くんこそ、今日は早かったんですね。アルコバレーノから会合で帰らないと聞いていたのですが。」

「ああ、それが相手の人が途中で倒れちゃってさ。まあ、結構な年齢だったみたいだからしょうがないんだけど。
それで早めに切り上げて帰ってきたんだ。
骸は、どうしたの…?いつもはマフィアを嫌って本部に寄り付きもしないのに…」

そこまで言って、ボンゴレボス10代目、沢田綱吉は色素の薄い茶色のおおきなひとみを、ぱちりと瞬かせて眉を寄せた。

「まさか骸…また、リボーンに何か危ない任務を受けさせられたんじゃないだろうな。」

「別に、気まぐれです。
それにいつも言っているでしょう、僕はマフィアの指図は受けない。やりたいようにやります。」

「うそだ。」

言いきられて、骸は驚きに僅かに瞳を見開いた。
自分の演技も、幻術も完璧だったはずだ。骸の幻術は五感全てに干渉する。血の臭いもしないだろう。
何故、あの鈍い彼が言い切るのだろうか。
綱吉は今も悩みの種である、ふわふわと奔放に跳ねたこげ茶の髪をかき回しながら、骸を上目遣いに見て言った。

「俺、知ってるんだからな。骸が誰よりも危険な任務につかされてるの。
髑髏や、千種さんや犬さんのためなんだろ?骸は、いつも口では冷たいけど、本当はすごく優しいから。
無理して危ないことする必要なんてないんだ。
俺じゃ頼りになんないかもしれないけど、リボーンが何か言ってきたら、すぐに俺に言ってほしい。」

思いがけない言葉に虚を突かれて、骸は呆然と綱吉を見た。
ああ、これだから彼は。
すぐには否定する言葉も見つからない。
そのせいで、自然に骸の手を包むように伸ばされた綱吉の両手に対する反応が遅れた。

『悪魔め!』

『呪われろ!』

憎しみに顔を歪めて吐き捨てる、太った中年の男。血みどろの部屋。
頭に一瞬流れた映像に、彼に知られてしまった事を知る。
超直感だ。
ボンゴレの血筋に脈々を受け継がれるこのやっかいな能力を、例に漏れず彼も有していた。
ハッと気付いて記憶を閉じるが、もう遅い。
短い間だったので、断片的な情報しか流れなかっただろうが、誰かを殺してきたことは明白だった。
骸は心無し顔を青ざめさせて、綱吉を見た。
彼とて、己のしてきた所業は知っている。ましてや、自分は彼を殺そうとまでしたことがあるのだ。
けれど、彼が骸を憎しみと怒りに彩られた果ての知れない地獄の道から救い出してくれたときから、彼が骸に光を与えてくれたその時から、極力人を殺していることを悟らせないようにしてきた。
けれど、殺しは骸の性だ。そうするように育てられ、強いられてきた。
ボンゴレの仕事だけではない。今もエストラーネオの残党狩りをしているし、人身売買や人体改造を行っているファミリーも潰している。
殺さずに生きることはできなかった。けれど、その憎しみを全人類に向けることがないのは、偏に彼の為だ。
甘い彼のことだ。骸がまだ殺戮を繰り返していることを知れば、悲しむだろう。そして、きっと骸を嫌悪する。
彼に嫌悪されてしまえば、もし拒否されてしまうことがあれば、骸は世界を憎まずにいられる自信が無かった。
骸の予想通り、綱吉はくしゃりと悲痛に顔を歪めて、骸を見ていた。

「骸は、悪魔なんかじゃないよ。」

「……え、?」

けれど、彼の唇から零れ落ちた言葉は、またしても骸の想像だにしないものだった。

「骸は、やさしいよ。平気そうに振舞ってるけど、傷ついてる。
もうこんなことばっかり、無理にしなくたっていいんだ。」

「…くは。
別に人を殺すことなんて、なんとも思いませんよ。息をするより簡単なことです。
憎まれたところで、どうせ死んだ人間はどうすることもできませんし。
それに、事実、僕は彼らにとって悪魔でしょうからねえ。
………君は、何か勘違いしてるんじゃいですか?」

彼の戯言を鼻で笑って、骸は彼の甘ったるく夢見がちな言葉を冷たい声音で否定した。
自分は彼が思うような人間ではない。人は骸を慈悲など持たない悪魔や死神などというが、自分でもその通りだと思う。
彼は間違っている。ボンゴレの過酷な任務を受けるのは、髑髏でも千種でも犬のためでもなく、他の誰でもない、彼のためだ。
彼を守るために受けている。彼を失うことに耐えられない、自分のためだ。
特別なのは、彼だけだ。
その他の人間など、骸にとってはゴミほどの価値もない。
だから殺すことに罪悪はないし、駒である千種達が死んだとしても、きっと骸の心は痛まないだろう。彼らもそれは分かっている。
なのに、どうして彼にだけは、誰にも分かるそんな簡単なことが分からないのだろう。
何故骸をやさしいなどと、そんな風に思えるのだろう。
彼のその甘さは、骸にとって尊いものだったが、同時に彼と自分との隔たりの深さを見せつけられて無性にイラついた。
けれど、骸の嘲笑にも構わず、彼は真摯な瞳でじっと骸の呪われた瞳を見つめて言った。

「骸は、自分では本気でそう思ってるかもしれないけど。俺にはわかるよ。
骸は悪魔なんかじゃない、やさしい人間だ。」

ふ、と息を吐いて、骸は眩しいものを見るように、目を細めて綱吉を見つめた。

「きみは、どうしてそうなんでしょうね。」

そうやって、いつも簡単に僕のこころを憎悪の闇から救ってみせる。
深い業を背負った、生きているだけで罪深い僕の存在を、いとも容易く赦してみせる。
神など何処にも存在しない。
けれど、もし神といえる存在がいるとするならば。
骸にとってのそれは、きっと、彼と同じ姿形をしているのだろう。魂までも。
僕のかみさま。
悪魔にも信じる神がいるだなんて、骸を呪って死んでいった者たちは驚くだろうか。
今日殺した、骸を悪魔と罵りながら死んでいった男の顔が脳裏にチラつき、骸はクハ、と自嘲の笑みを浮かべた。

「もう、絶対にこんなことはさせないから。リボーンにも俺からきつく言っておく。
だから、骸もちゃんと断ってくれよ。こんなことばっかりしていたら、いつか骸も怪我するかもしれない。
…俺、自分でも最低だってわかってるけど、相手の人が傷つくことより、骸が傷つくことの方が嫌だ。
勿論誰かが傷ついたり、死んだりすることは嫌だし、骸が人を殺すのも嫌だけど…骸が怪我するのが、一番嫌だ。
骸は嫌かもしれないけど、骸は俺にとって、大事な仲間なんだ。だから。」

必死に言い募る綱吉を見つめながら、骸は、きっとまたリボーンの任務を受けるであろう自分を確信した。
リボーンも心得たもので、綱吉を盾にすれば絶対に逆らわない骸をよく知っている。
今回は比較的容易だったが、基本的に骸に回される任務はやっかいで過酷なものが多い。瀕死の重傷を負ったこともある。
彼は反対するだろうが、彼の知らぬところで、おそらくこれからも変わらず骸にはそういう任務が回されてくるだろう。
しがらみがなく、戦闘能力にも秀でている骸にしかできない任務は多い。
仕方がない。組織に汚れ役は必要だ。
もしかすると、ボンゴレに敵対する全ての者の憎しみを、骸が一身に引き受けることになるかもしれない。
それでも。
骸は、甘くこころを震わせた。
あの名も知らぬ誰かが傷つくのにも心を痛めるような彼が、骸が殺す相手よりも、骸の身を案じている。
それだけで十分だった。
これからどれだけの憎しみを、呪詛を受けようと、構わない。
彼を守るためならば、彼が幸福な世界で笑っていられるならば、喜んでこの身を差し出そう。六道輪廻の果てまでも。
ひょっとすると、こうして彼に心配してもらうのを期待してわざと危険な任務も受けていたのかもしれない、とまで己を疑って骸は苦笑した。
それを自分のことを笑われたのだと勘違いしたのか、彼が心配そうに骸を覗き込んでくる。

「俺、本気でそう思ってるんだぞ!
勝手なことばっかり言ってるって、解ってるけど。
同情してるって、そんなものいらないって思ってるかもしれないけど。
……俺、本気で骸のこと心配してるから!」

本当に、彼には勝てない。
込み上げる愛しさで、窒息しそうだ。

「きみは、ほんとうに、甘いひとだ。」

悪魔はいつものように、彼の神へと祈りの言葉を捧げた。



















本当は拍手のお礼にしようと思って書いてたのですが、御礼なのにこんな暗いのはどうなんだろう…と思って普通にUPすることに。
拍手のお礼はもう一本明るめのヒバツナを書きかけてるのでそれにしようかと思い中です。
もう一年以上同じ御礼だから早く変えねば…!(汗
ツナたん教に入信しているむくろさん。
むくろさんって多分、ツナたんのことを天使か何かだと勘違いしてるんじゃないんでしょうか。いや真剣に!(マテ
何か変な幻想を抱いてそうです。まあ要するに、アイドルはトイレ行かない!と似たよーなもんですね!(違うYO!
でも、強い思い込みって怖いですよね。神に対する信仰に似たソレなら特に。
でもそれがおいしいんだな…同人界における攻めとしては…じゅる(殴
久々の更新がこんなんですみません…リクエストも早めにお届できるよう頑張ります…!
特に獣の家を早く…!げふ!

御影








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2008.07.18